本研究は、細菌べん毛軸構造形成中間体と短繊維べん毛の構造をクライオ電子顕微鏡によりロッド-フック結合部、フック-フィラメント結合部の構造と、各部の成長端の構造を解明し、物性・機能・構造・シンメトリーが異なる領域を結合して巨大な軸構造が一体で作動するしくみとシンメトリーミスマッチを克服・利用して複雑な構造を形成するしくみの解明を目指している。今年度の実績は以下の通りである。 1)フィラメント欠損変異体から精製したジャンクション中間体べん毛の構造精密化を進めた。前年度までにクライオ電子顕微鏡像の単粒子解析により得た4.44 A分解能の密度図に基づいて、構造モデルの構築と精密化を行い、FliD 5-merキャップからフックに至るモデルを完成させた。その結果、らせん状に集合しているフックと2種類のジャンクション蛋白質の位置による構造の違いは小さいこと、ジャンクションを構成するFlgKのD0ドメインの構造変化により異種蛋白質の結合を可能にしていることが明らかになった。 2)昨年度に引き続いて、フックにFlgDキャップが結合した状態のべん毛試料のクライオ電子顕微鏡単粒子解析を行った。その結果、FlgDキャップ-フック結合部の3.7 A分解能密度図の作成に成功した。密度図に基づいてフック成長端の構造モデルの構築と精密化を行った。その結果、キャップを構成するFlgD 5分子のうちひとつの構造が他と異なり、新たなフック蛋白質の組み込みの場を提供していることが明らかになった。また、粒子像の分類により、構造が異なる3.95 Aの密度図も得られた。これらの構造は、新たに組み込まれたフック蛋白質の固定前と固定後の構造に対応すると考えられる。
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