研究実績の概要 |
電位依存性ホスファターゼVSPは、膜電位という電気信号を酵素活性の制御という化学信号に変える膜タンパク質であり、生物における電気信号の新たな役割を示す重要な分子である。本研究では、VSPの様々な状態の詳細な原子構造を解明し、VSPが電気信号を化学信号に変える動作機構の理解を目指すとともに、電気生理実験や蛍光アミノ酸ANAPを利用した実験により、細胞内の動きを追うことを試みた。 前年度に引き続き、野生型VSPに加え、酵素活性をなくしたC302S変異体を対象として加えて研究を進めた。また、これと並行してN末端領域を削除した変異体、およびN末端およびC末端それぞれに我々が開発した結晶化タグ(Gnb-tag)を付加した変異体についても発現・精製条件の最適化を進めた。様々な条件での結晶化スクリーニングの結果、DrGgVSP(C302S,30-511)-GnbとeGFPの複合体の微結晶を得ることに成功した。 ホヤ由来VSP(Ci-VSP)の活性中心のシステインC363の隣のリシン残基K354は種間で高度に保存されているが、タスマニアデビル、コアラ、シカシロアシネズミ由来のVSPではメチオニンに、オポッサムではロイシンに置換されていた。そこでCi-VSPの364位を様々なアミノ酸に変化させた変異体を作製し、電位依存的な脱リン酸化活性を測定したところ、この部位の違いによる電位依存的な酵素活性の変化が明らかになったた。これらの結果から、PIP脱リン酸化酵素の基質選好性を理解することで、新たな分子ツールの設計が期待されると考えている。
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