研究課題/領域番号 |
21H02452
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研究機関 | 京都産業大学 |
研究代表者 |
津下 英明 京都産業大学, 生命科学部, 教授 (40299342)
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研究分担者 |
川野 竜司 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (90401702)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ディフィシル菌 / 二成分毒素 / クライオ電子顕微鏡 / 膜孔形成毒素 / トキシン透過システム / タンパク質膜透過 / ADPリボシル化 |
研究実績の概要 |
ウェルシュ菌が持つbinary毒素である、膜孔形成毒素Ibの構造と機能解析を進めている。膜孔形成毒素Ibはアクチン特異的ADPリボシル化する酵素Iaを膜透過させるトランスロコンである。IaがアクチンのADPリボシル化毒性を発揮するためにはIbが①水溶性プレ膜孔オリゴマー(7量体)を形成、次に細胞膜上で構造変化をおこし②Ibオリゴマーからなる膜孔を形成、③これにIaが結合し、Iaの立体構造がほどけて、④IaがIbオリゴマー膜孔を通過する、この4つのステップが必要となる。我々はクライオ電子顕微鏡を用いた単粒子解析により、Ib膜孔とIaが結合したIb膜孔の構造をそれぞれ2.9オングストローム;の分解能で決定することに成功している(2020年)。これに続いて、抗生物質耐性菌の感染が問題となっているディフィシル菌が持つ二成分毒素CDTの構造をクライオ電子顕微鏡を用いて明らかにした(Nature Communications, 2022)。界面活性剤LMNGの存在下で、CDTa結合したCDTb膜孔を調製、電子顕微鏡でのデータ測定と解析を進めた。その結果、ダイヘプタマーの14量体とともにイオタ毒素と同様の7量体のCDTb膜孔構造が存在していることがわかった。これにCDTaを加えて、クライオ電子顕微鏡での構造決定を行った。其の結果CDTa1分子がCDTb膜孔に結合した構造を明らかにした。さらに、CDTaがCDTb膜孔に結合した状態での構造解析から、結合したばかりのCDTaとCDTb膜孔複合体と、CDTaのN末端のαヘリックスが一部解けた状態とCDTb膜孔複合体の2つの構造をそれぞれ精密化して明らかにした。これはN末端のαヘリックスのアンフォールディングの動的な様子を捉えた初めての報告となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2020年3月、我々はクライオ電子顕微鏡を用いた単粒子解析により、Ib膜孔とIaが結合したIb膜孔の構造をそれぞれ2.9オングストロームの分解能で決定することに成功した(Nature Structural & Molecular Biology, 2020)。Ia-Ib膜孔複合体は報告されている二成分毒素の酵素-膜孔複合体で唯一、3オングストロームを切る高分解能の構造となった。これに続いて、抗生物質耐性菌の感染が問題となっているディフィシル菌が持つ二成分毒素CDTの構造をクライオ電子顕微鏡を用いて明らかにして、論文発表を行った(Nature Communications, 2022)。特に注目すべきはN末端のαヘリックスのアンフォールディングの動的な様子を捉えた初めての報告となった。これら二成分毒素のタンパク質膜透過の仕組みはまだよくわかっていないが、このシステムをトキシン膜透過システムと名づけ、さらに研究を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
タンパク質の膜透過の仕組みについて理解を進めることは、重要である。特に二成分毒素の系は、重要な役者は透過されるタンパク質と透過する装置の2つであり単純なことから、透過の仕組みを明らかにするに適した系であると考えられる。これにホストの細胞内のシャペロンのいくつかが最後の透過の段階で関わると考えられているが、これらの透過機構の詳細の理解をしたいと考えている。膜透過による細胞毒性は細胞実験で見ることができるが、幾つものファクターが関わる。このため、in vitroの透過アッセイ系を立ち上げたいと考えている。また、膜孔形成毒素は、毒素だけでなく自然免疫の最前線としても活躍している(ガスダーミンなど)点、興味が尽きない。これらを考えながら、これらのタンパク質の膜孔形成機構にも焦点を当てながら、研究を進めたいと考えている。
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