研究課題
タンパク質の膜透過の機構の詳細はわかっていない。原核生物からヒトまでタンパク質をアンフォールドさせて透過する装置はいくつか存在するが、まだそのタンパク質透過機構の詳細は不明である。その理由は透過装置と基質タンパク質との複合体の構造の詳細がわかっていないことと、さらに次の透過の動的構造がわかっていないことによる。C. perfringens の二成分毒素であるイオタ毒素(ADPリボシル化毒素Iaとその細胞内への透過装置Ib)の構造解析を行なった(2020NSMB)。IaがIbへ結合してN末端が解けたIb膜孔の構造は、透過の最初の段階と考えられ、膜透過装置がシャペロンの働きを持つことを初めて示した。二成分毒素としてヒト感染症で最も注目を浴びているのはディフィシル菌由来のCDTである。ディフィシル菌はTcdA及びTcdBという、2つのRhoグリコシル化毒素を持ち、さらに第三の毒素である二成分毒素CDTの関与が疑われている。R4年度、我々はC. perfringens の二成分毒素であるイオタ毒素の構造解析に続き、CDTa-CDTb膜孔のサンプル調整、構造解析を行い、さらに追加実験を行い、論文採択に至った(2022Nature Commun)。特に重要な点は、クライオ電子顕微鏡データの解析により、CDTaはCDTbに結合したばかりのインタクトな状態と、N末端が解けた状態の2つの状態、すなわち、タンパク質のアンフォールディングと共役した膜透過のための動的な構造変化を初めて捉えた。2つの二成分毒素の構造解析からA成分が膜透過装置に結合するだけでアンフォールディングする共通する機構がわかってきた。R5年度、さらにこれらの研究を発展させ、最近日本で見い出されたに二成分毒素CPILE(別名BEC)の、構造と機能に着目し、特にB成分膜孔の狭窄部位に着目した実験を行ってきた。
3: やや遅れている
二成分毒素としてヒト感染症で最も注目を浴びているのはディフィシル菌由来のCDTである。ディフィシル菌はTcdA及びTcdBという、2つのRhoグリコシル化毒素を持ち、さらに第三の毒素である二成分毒素CDTの関与が疑われている。我々はC. perfringens の二成分毒素であるイオタ毒素の構造解析に続き、CDTa-CDTb膜孔のサンプル調整、構造解析を行った。しかし最初の論文投稿で、多くの改訂をレビュワーから求められた。そのための再実験を含めた校正に時間を要した。特に表面プラズモン共鳴イメージングでのA成分とB成分の結合解析およびCDTbダブルヘプタマーの形成を探る点変異体の作成とゲル濾過による実験は新たに加えられた。さらにクライオ電子顕微鏡データの再解析により、タンパク質透過に関わる重要な情報が得られた:CDTaはCDTbに結合したばかりのインタクトな状態と、N末端が解けた状態の2つの状態:動的な構造が見えてきた。これは、この申請のテーマである動的な構造解析につながる結果となった。これらを合わせて論文を校正して、論文として採択された。
イオタ毒素Ibやディフィシル菌毒素CDTbでは最狭窄部位はPheでできたφクランプでできており、これがタンパク質膜透過に最も重要であることはわかっている. 一方、CPILE-bのクランプ最狭部位はSerでありセリンクランプと呼ばれる。セリンクランプとφクランプでは狭窄部位の大きさも疎水・親水といった違いもあり、どのような影響をしているのか興味深い。さまざまな方法によりセリンクランプとφクランプとの違いを比較検討している。すなわち、細胞毒性にどのような影響があるのか、CPILE-bのみ、それにCPILE-aを加えた時、これらのイオタ毒素との比較もしながら進めている。これに加えて、CPILEの構造解析と電気生理及び、腸管結紮ループ実験も含めて進める予定である。これらの実験から、φクランプのタンパク質膜透過に関わる重要な意味、またセリンクランプに置き換わった変異体での生理的意義について探っていく。
すべて 2024 2023 2022
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (19件) (うち招待講演 3件)
J Med Chem
巻: 67,9 ページ: 7048-7067
10.1021/acs.jmedchem.3c02351.
Nat Commun
巻: 13(1) ページ: 6119
10.1038/s41467-022-33888-4.