研究課題/領域番号 |
21H02454
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研究機関 | 分子科学研究所 |
研究代表者 |
飯野 亮太 分子科学研究所, 生命・錯体分子科学研究領域, 教授 (70403003)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 分子モーター / 1分子計測 / べん毛 |
研究実績の概要 |
研究協力者の錦野達郎博士(名古屋工業大学助教)が明らかにしたPomAB複合体の構造を参考に、精製用タグや金ナノ粒子プローブ導入位置のさらなる検討を行った。特に、Ni-NTA修飾ガラス基板への結合数を増加させるため、AlphaFold2を用いてモデリングを行ってHis10タグの前にαヘリックスを形成するアミノ酸をさらに追加し、Ni-NTA修飾ガラス基板へのHis10タグのアクセスを改善した。 また、PomABのイオン輸送は、ペプチドグリカンやべん毛の回転子リングに結合していない状態では阻害されると考えられている。この阻害は、PomBのプラグ領域がPomAリングと相互作用することで回転を物理的に阻害することで起こり、活性化にはプラグ領域がPomAリングから解離する必要があると考えられている。よって、単離したPomABの1分子回転計測においても、このプラグ領域を解離させる必要がある。そこで、プラグ領域に位置するイソロイシン残基にシステイン変位を導入し(I50C)、負電荷をもつ低分子化合物MTSES(2-[(methylsulfonyl)thio]-ethansulfonic acid)と反応させることで強制的に解離させる系を構築した。 上記の系が機能することを確認するため、高濃度のNaClを加えた培地での大腸菌の増殖に基づく実験を行った。その結果、野生型のPomABを発現させた大腸菌の増殖はMTSESの添加で阻害されないのに対し、変異体ではMTSES処理により増殖が阻害されることが確認された。また、還元剤のDTTを加えることで増殖が回復することも確認された。これらの結果から、PomBのI50C残基にMTSESが反応することでPomBが解離して回転運動が起こることで、細胞外からNa+が流入して細胞内Na+濃度が増加し細胞毒性により増殖が可逆的に阻害されたと結論した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
専門技術を有する研究協力者(技術支援員)の雇用を予定していたが一身上の都合により、2022年11月に着任することが不可能となり、一部の研究の遂行が困難となった。日程調整を再度行い、技術支援員が参画可能となる2023年4月から実施する必要が生じた。
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今後の研究の推進方策 |
精製したPomAB複合体を脂質二重膜小胞(リポソーム)に再構成し、イオン輸送活性の測定を確立する。PomABとVoV1またはKR2を同時に再構成することで、ATPまたは光で電気化学ポテンシャルを形成可能にし、蛍光指示薬でリポソーム内部のNaイオンの濃度変化を検出する。PomAB を含まずVoV1、KR2のみを再構成したリポソームをコントロールとして比較することで、PomAB変異体のイオン輸送活性を評価する。 尚、界面活性剤で可溶化したPomAB、VoV1、KR2をリポソームに再構成する際、配向の制御が重要となる。そこで、親水性頭部に電荷を持つリン脂質を加えてリポソームを調製し、ポリヒスチジンタグを持つPomAB、VoV1、KR2の配向の制御を試みる。リポソームへの再構成法としては、凍結融解法、透析法、バイオビーズ法を試す。尚、VoV1のATP加水分解で電気化学ポテンシャルを形成する際は、リポソームの外側にATPを加える。この場合、V1部がリポソームの外側に配向したVoV1のみがATPを分解し、Naイオンの輸送は外部から内部への一方向となる。よって、VoV1の配向制御は必ずしも必須ではない。
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