研究課題/領域番号 |
21H02471
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
水野 健作 東北大学, 生命科学研究科, 名誉教授 (70128396)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 間葉系幹細胞 / 分化 / アクチン骨格 / Rho / 力覚応答 |
研究実績の概要 |
間葉系幹細胞(MSC)は、硬い基質上では筋肉や骨に、軟らかい基質上では脂肪細胞や神経細胞へ分化することが知られており、液性因子の作用に加えて、外環境の硬さは分化方向を決定する重要な要因である。本研究は、MSCの基質の硬さ依存的な分化誘導の機構を解明することを目的とした。特に、基質の硬さに応答するアクチン骨格再構築に関与するRhoシグナルに注目し、そのシグナル伝達機構と作用機序の解明を目指した。まず、MSCの脂肪細胞と骨芽細胞への分化をモデルとし、ヒトMSCを硬さの異なる基質上で培養して分化転換の効率を検討した。細胞を付着させる基質として、脂肪、骨の組織に相当する硬さのアクリルアミドゲルを用いた。しかし、基質の硬さによる分化誘導の効率が悪く、関与するRhoシグナル分子の探索に用いるには、さらに条件検討が必要となった。これに対し、液性因子を添加した分化誘導培地を用いた場合、分化誘導は再現性よく確認された。そのため、基質の硬さによる分化誘導に先んじ、液性因子による脂肪細胞への分化誘導に関与するRhoの活性制御因子の探索を開始した。まず、ヒトゲノムに存在するRhoファミリーの活性化因子(RhoGEF)全80種類について、siRNAを用いた発現抑制によるスクリーニングを行った。その結果、発現抑制によって脂肪細胞への分化を促進したものとして5種、分化を抑制したものとして6種類を見出すことに成功した。発現抑制によって分化を促進したものはRhoAを活性化するものが多く、分化を抑制したものはRac、Cdc42を活性化するものが多く含まれていた。これらの結果から、MSCの脂肪細胞への分化において、主に、RhoAは分化を抑制し、Rac, Cdc42は分化を抑制することが推定された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の主要なモデルであるMSCの脂肪細胞と骨芽細胞への分化誘導の実験系を市販されているヒトMSCを用いて検討した。液性因子を添加した分化誘導培地による分化誘導と基質の硬さを変化させた条件での分化誘導のモデルを検討した結果、分化誘導培地による脂肪細胞、骨芽細胞への分化はこれまでの報告通り再現された。また、基質硬度の硬さについては、アクリルアミドゲルを用いてさまざまな硬さで細胞を付着させる基質面の作製方法を確立した。しかし、軟らかい基質面での脂肪細胞への分化は効率が悪かった。これは継代が進んだ市販のヒトMSCを用いたためであると考えられたため、これを解決するため分化誘導培地との組み合わせによって基質の硬さの効果を見出す条件検討がさらに必要となった。この検討を行うと共に、分化誘導培地による脂肪細胞への分化に必要なRhoシグナル分子の探索を先行して行った。Rhoの活性制御因子のうち、まず、Rhoの活性化因子であるRhoGEFに注目し、ヒトゲノムに存在する80種類のRhoGEF全てについて2種類以上のsiRNAを用いた発現抑制スクリーニングを3回繰り返して行った。その結果、脂肪細胞への分化を有意に促進するRhoGEFを5種、抑制するRhoGEFを6種見出した。以上のように、本年度はMSCの分化誘導の実験方法を確立し、RNA干渉を用いた遺伝子発現抑制のスクリーニングを実施し、MSCの脂肪分化に関わる11種の新たなRhoGEFの同定に成功した。このように、研究計画はおおむね順調に進んでいると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
1)MSCの脂肪細胞分化に関与するRhoGEFの機能解析:昨年度同定したMSCの脂肪細胞への分化を促進/抑制するRhoGEFについて、脂肪細胞への分化に関与する転写共役因子のYAPやPPARγに対する働きを解析する。また、RhoGEFと標的のRhoファミリー分子がこれらの転写共役因子の発現や核局在を制御するシグナル伝達経路について、アクチン繊維の重合/脱重合制御や他のシグナル分子の関与を明らかにする。さらに、基質の硬さ依存的な脂肪細胞への分化にこれらの経路が関与しているかを解明する。これらの解析を通して、MSCの脂肪細胞への分化誘導におけるアクチン骨格再構築と力覚応答の役割を明らかにする。 2)MSCの脂肪細胞と骨芽細胞への分化誘導に関与するRhoGEF/RhoGAPの探索:昨年度に引き続き、siRNAを用いた発現抑制による網羅的なスクリーニングを行い、MSCの分化誘導培地による脂肪細胞と骨芽細胞への分化に関与するRhoGEFとRhoGAPを探索する。 3)MSCの基質の硬さ依存的な分化誘導方法の確立:MSCの基質の硬さ依存的な分化誘導の条件検討を行う。分化誘導培地と基質の硬さの違いを組み合わせて分化の効率が変化する条件を探索する。効率が低い原因は、市販のヒトMSCの性質によることも考えられる。その場合、他の細胞を用いて検討するか、MSCの基質の硬さに対する応答を細胞形態とアクチン骨格を指標に解析する方法を検討する。これらを用いて基質の硬さ依存的な分化誘導に関与するRhoGEF/RhoGAPを同定し、それらの機能を解析する。
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