本研究は、基質の硬さに依存した間葉系幹細胞(MSC)の脂肪細胞への分化について、低分子量G蛋白質Rhoファミリーの活性化因子であるRhoGEFによる制御機構の解明を目的とした。昨年度までに、MSCの脂肪細胞への分化誘導に対し、ヒトゲノムに存在するほぼ全てのRhoGEF(80種類)についてsiRNAによる発現抑制の影響を解析した。その結果、siRNAによって脂肪細胞への分化が促進された(つまり脂肪細胞への分化を抑制する)RhoGEFの候補として14種を同定した。一方、siRNAによって脂肪細胞への分化が抑制された(つまり脂肪細胞への分化を促進する)RhoGEFの候補として7種を同定した。これらの中で、ALS2などの7種類のRhoGEFは、機械刺激応答に関与すると報告されているRhoGEFであった。これらのRhoGEFの脂肪細胞分化に対する作用機構を解明するために、脂肪細胞分化のマスター遺伝子として核内へ移行して働くことが知られている転写因子のPPARγ、および、その逆で硬い基質での培養によって核内移行し、脂肪細胞分化を抑制することが報告されている転写共役因子であるYAPの細胞内局在について検討を行った。その結果、脂肪細胞への分化に伴うPPARγの有意な核移行は検出されなかったが、YAPの核外移行が観察された。そこで今回同定したRhoGEFの発現抑制や過剰発現によるYAPの核と細胞質への局在に対する影響について検討した。また、本研究で用いた市販のMSCでは、基質の硬さのみに依存した分化誘導が困難であったため、硬さを調整したアクリルアミドゲルの基質上で分化誘導培地による脂肪細胞分化の効率を検討した。その結果、MSCは、軟らかい基質上でより脂肪細胞に分化することを確認した。この条件で今回同定したRhoGEFの発現抑制と過剰発現の影響の解析を進めている。
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