研究実績の概要 |
嗅覚は生物が持つ最も原始的な感覚と言われており、食物の探索、交配対象の同定や天敵の察知に重要な機能を果たす。更に嗅覚は個体の生理状態に影響を及ぼすことが知られている。例えば、料理の香りは唾液の分泌量を増やし食欲を増進させる。また、漢方・アロマセラピーなどの民間療法では、匂い(香り)による気分や体調の調節が可能である。しかし、このような経験的な「匂い効果」に関する科学的な検証は未だ少ないのが現状である。そのような中、C. elegansやショウジョウバエの嗅覚系変異体では寿命が顕著に延長することが報告された (Neuron 41, 45-55, 2004; Science 315, 1133-7, 2007)。このように嗅覚と老化現象の間には密接な相互作用があるものの、その分子メカニズムは殆ど明らかになっていない。このような状況を鑑み本研究では、高度な遺伝学的手法を用いることができ、寿命研究に適したショウジョウバエを用いて「嗅覚による個体老化制御の分子基盤」の解明を目指した。 2021年度は、個体の生理状態を簡便に検出するためのシステムとして、赤色発光システムAkalucを用いたレポーター系統の作出を行った。オートファジーレベルの検出にはAtg8a遺伝子のプロモーターを、免疫系レベルの検出にはIBIN遺伝子のプロモーターを用いた。その結果、Atg8ap-Akaluc系統, IBINp-Akaluc系統は、それぞれオートファジーレベル、免疫レベルを反映する強度で赤色発光することを確認できた。今後、これらの系統を用いることで、個体を殺さずに簡便に個体生理状態を把握できることが可能になる。
|