研究実績の概要 |
嗅覚は生物が持つ最も原始的な感覚と言われており、食物の探索、交配対象の同定や天敵の察知に重要な機能を果たす。更に嗅覚は個体の生理状態に影響を及ぼすことが知られている。驚くべきことに、C. elegansや ショウジョウバエの嗅覚系変異体では寿命が顕著に延長することが報告された (Neuron 41, 45-55, 2004; Science 315, 1133-7, 2007)。このように嗅覚と老化現象の間には密接な相互作用があるものの、その分子メカニズムは殆ど明らかになっていない。このような状況を鑑み本研究では、高度な遺伝学的手法を用いることができ、寿命研究に適したショウジョウバエを用いて「嗅覚による個体老化制御の分子基盤」の解明を目指した。 2023年度は、2021年度、2022年度に作製・解析した「赤色発光システムAkalucを用いた遺伝子発現レポーターシステム」の学術論文投稿を行い、Communications Biology誌に掲載することができた。この遺伝子発現レポーターを用いて、個体老化・個体免疫に影響を与える嗅覚受容体神経の探索を行うことで、個体免疫を制御する嗅覚受容体神経を見出すことに成功している。ここで特定した嗅覚受容体神経を光遺伝学的に活性化することで、自然免疫経路を活性化できることも確認している。個体老化は自然免疫活性化に密接に関わることが知られている。よって、この「自然免疫を活性化する嗅覚受容体神経」は、個体老化に関わる嗅覚回路を構成している可能性がある。今後は、この嗅覚回路を中心に、「嗅覚はどのように個体老化を制御するか」という問いについて神経遺伝学的な解析を進める予定である。
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