多細胞生物の発生においてつくりだされる多様な遺伝子発現パターンは遺伝子調節ネットワークの働きによるものである。ネットワーク構造の理解は進んだが、その動態の理解は進んでいない。私のグループでは、ゲノムと胚の構造が単純なホヤを用いて遺伝子調節ネットワークの動態を細胞の単位で解析し、32細胞期までの胚全体のネットワーク動態を計算機上で再現することに成功している。その再現においては、経験則的な仮定を置いているのでそうした仮定の実証を進める。具体的には次の三つの課題に取り組む。(1)明確な結合配列がその標的の調節領域にない転写因子について、一部は複数のモチーフを認識する可能性の検証。(2)受精後一定時間たってから胚性ゲノムからの転写が始まるというZygotic genome activationの分子機構の理解。(3)遺伝子調節ネットワーク動態が不連続に進行する背景にある分子機構。 (1)については令和3年度までにほぼ完了したが、内容を発展させ、複数モチーフを認識するZicタンパク質の関与する神経系・中胚葉系の分化機構についての解析をおこなった。特に筋肉の分化においては、Zicが細胞分裂の調節をおこなっていることを明らかにした。(2)については、初期胚で新しく転写される遺伝子を網羅的に同定し、その転写に影響を与える母性因子を絞り込んだ。(3)について、Foxd mRNAの動態をRNAscope法によって定量的に観察し、タンパク質の挙動と比較解析をおこなった。
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