研究課題/領域番号 |
21H02488
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
松野 健治 大阪大学, 理学研究科, 教授 (60318227)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 発生 / 左右非対称性 / ゲノム / クロマチン / Hi-C |
研究実績の概要 |
からだの左右非対称性は動物発生の必須要素であるため、その機構の解明は発生学の重要課題である。研究代表者は、ショウジョウバエをモデル系として用い、左右非対称性形成に必要な遺伝子を網羅的に探索した。この研究において、narigoma(nag)と命名した10kbの非コード・ゲノム領域(nag領域)が、消化管の左右極性の決定に不可欠で、特異的な機能を担っていることを示唆した。研究代表者は、nag領域が、クロマチン相互作用を介して、消化管の左右非対称性形成で機能していると予測した。そこで、nag領域を中心とするゲノムネットワークを解析し、消化管の左右極性決定におけるその役割を明らかにすることを目的として、以下の実験を実施して成果を得た。 (1) RNAseq法を用いたnag領域の標的遺伝子の同定 nag領域による転写調整を受ける標的遺伝子(群)は、消化管の左右極性決定の実行部隊として機能していると予測している。これらの標的遺伝子をmRNA-seq解析法を用いて探索した。遺伝的バックグラウンドの違いによる遺伝子発現量の差異を除外するために、nag突然変異体として、nag1とnag2を用いた。野生型、nag1ホモ接合体、nag2ホモ接合体の胚からそれぞれmRNAを抽出し、mRNA-seq解析を実施した。野生型と比較して、nag1とnag2突然変異で共通して発現量が2倍以上に増加、1/2以下に減少する複数の遺伝子を同定することに成功した。 (2) Hi-C法を用いたnag領域のクロマチン nagエンハンサーによる制御を受けている標的遺伝子は、クロマチンにおいてnag領域と相互作用すると予測した。そこで、Hi-C法を用いて、野生型とnag1突然変異でクロマチン・ループを比較した。その結果、nag領域は、クロマチン領域間の相互作用を抑制していることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の開始時点では、nag領域の機能は全く不明であった。このため、当初をエンハンサーでると予測して研究を開始した。しかし、令和3年度で実施した、Hi-C法を用いた解析(研究実績の概要の(1))によって、nag領域が、クロマチン間の相互作用を抑制する機能があることが示唆された。10kbのnag領域が欠失すると、その周辺の広範囲の領域の相互作用が増強される。このような性質のゲノム領域が、その機能(左右非対称性形成)と関連して同定されることはまれであり、令和3年度の成果によって、革新性の高い研究への突破口を開くことができたと判断している。
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今後の研究の推進方策 |
(1) nag領域によるクロマチン相互作用抑制の再現性の検討 令和3年度に実施したHi-C解析では、野生型とnag1突然変異のみを、それぞれ1サンプルで比較した。しかし、クロマチン間相互作用の変化が、遺伝的バックグラウンドの違いによる差異を反映している可能性がある。そこで、野生型、nag1ホモ接合体、nag2ホモ接合体の胚から、それぞれデュプリケートでHi-Cライブラリーを作製し、クロマチン間相互作用の解析を実施する。これにより、nag領域のクロマチン相互作用抑制の再現性を検討する。 (2) CRISPR/Cas9法によるnag最小領域の同定 現在までに、nag領域を、6kbpのゲノム領域まで絞り込んでいる。しかし、nag領域の機能を解明するためには、クロマチン間の相互作用を抑制する活性を示す最小のゲノム領域を特定することが有効である。これまでと同様にCRISPR/Cas9法を用いて、nagエンハンサーを含むゲノム領域により短い欠失変異を導入する。得られた欠失突然変異が、消化管の左右非対称性の異常を示すかどうかを指標として、nag領域を含むゲノム領域を限局していく。また、得られた最小領域のnag突然変異体を用いてHi-C解析を実施し、クロマチン間の相互作用が亢進していることを確認する。 (3) RNAseq法を用いて同定したnag領域の標的遺伝子の機能解析 令和3年度にRNAseq法を用いて同定した、nag領域による発現制御を受ける遺伝子の候補について、これらが消化管の左右非対称性形成で機能しているかどうかを調べる。Nag突然変異体で発現が上昇した遺伝子についてはRNA干渉法によるノックダウン、低下した遺伝子については強制発現を、それぞれnag突然変異のホモ接合体胚で実施し、消化管の左右非対称性異常が救済されるかどうかを検討する。
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