研究課題/領域番号 |
21H02494
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研究機関 | 基礎生物学研究所 |
研究代表者 |
藤森 俊彦 基礎生物学研究所, 初期発生研究部門, 教授 (80301274)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | マウス / 着床 / 上皮細胞 |
研究実績の概要 |
胚が子宮に到達し着床が成立するまでの3.5日目から4.5日目の24時間の間に見られる子宮内膜上皮の形態変化を詳細に観察した。着床時におきる脱落膜反応を可視化するマウスを作製し、胚と子宮上皮の相互作用の開始を可視化することを試みた。2種類のマーカー遺伝子に蛍光タンパク質をノックインする方法でレポーターマウスを作製したが、何れも脱落膜特異的な可視化には不適であった。そこで、別の分子を認識する抗体を用いて免疫染色により可視化することによって実現した。 妊娠4日目までには胚の存在する領域とそれ以外で顕著な違いは見られなかったが、脱落膜反応が開始する4日目以降に領域による顕著な違いが見られることが明らかになった。子宮上皮細胞の形態及び子宮上皮層の形態を観察するために、Plekha-7にGFPを融合したタンパク質を発現するマウスを用いて観察を行った。子宮の横断面での観察により、4.0日以降に胚の存在する領域において他の領域と比べて細胞数、頂端-基底軸に対して垂直な細胞辺の長さの何れもが優位に大きいことが明らかとなった。Ki67および活性化カスパーゼ3を認識する抗体を用いた免疫染色により、細胞増殖及び細胞死は領域によって明確な差がないことが明らかとなった。以上から、領域による上皮形態の変化は細胞の組換えおよび細胞の形態変化によって起きることが示唆された。 子宮の上皮形態の変化と胚軸の関係を調べた所、領域による上皮形態の変化が見られ始める4.0日においては、胚の向きは子宮の向きと一致せずランダムな方向を向いていた。着床室が形成され始めると次第に胚軸が子宮の子宮間膜-対子宮間膜軸に沿うようになることが明らかとなった。以上から、着床室の形成が胚軸と子宮軸の一致においても重要であることが示唆された。子宮軸と胚軸との一致がどのような機構によって成立するかについての解析を更に進める予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
胚と子宮上皮の相互作用の開始を可視化するレポーターマウスの作製は予定から遅れたが、他はほぼ順調に進展したため。
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今後の研究の推進方策 |
胚軸と子宮軸の一致については、着床室形成と平行して成立することが明らかになった。着床室成立の際に、胚と直接相互作用を開始した領域とそれ以外の領域の間でどのような機構により子宮上皮形態の違いができるかの解明を目指す。その為に胚からの相互作用により開始される脱落膜反応が見られる細胞で発現する分子群の機能を阻害した際の上皮形態変化への影響を調べる。また、上皮細胞層の形態の変化は、上皮細胞層の力学的性質が変化することによって引き起こされることが想定される。そこで、脱落膜反応によって起きる上皮細胞における変化が子宮内のどの細胞層から発揮される機械的な力の変化によって誘導されるかを同定する。子宮内で機械的な力の変化をもたらすことが可能な組織は子宮の外周を取り巻く平滑筋、平滑筋と子宮内膜上皮組織の間を埋めるように存在する間質細胞、更に子宮内膜組織自身が想定される。それぞれについて着床室形成時におきる変化を解析することから開始する。
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