研究課題
本研究では、分泌シグナルは拡散するものという考え方を問い直し、分泌シグナルの拡散状態の違いに注目し、それを生み出す分子機構とその生物的意義を検討することを研究の中心に据えている。本年度は、(1)分泌シグナルタンパク質であるWntが、拡散性の異なる状態へどのように移行するのか、(2)低拡散状態と高拡散状態の各々が持つ生物学的意義とは何か、という2つの目的に焦点を当てて研究を進めた。(1)については、前年度までの解析により、Wntキャリアタンパク質であるsFRPの種類により、Wntとの結合性や細胞外での挙動が異なることが培養細胞系等を用いた実験により示されたことから、そのさらなる解析と特異性の意義の検討を主にアフリカツメガエル胚を用いて行った。その結果、すでに明らかになっていたsFRP2に加えsFRP1もWnt3aと特異的に複合体を形成し、これらが細胞膜上のへパラン硫酸プロテオグリカン(HSPG)に結合すること、さらにこの結合はHSPGの糖鎖修飾の状態に依存することが明らかになった。さらに、これらの複合体がエンドサイトーシスにより細胞内に取り込まれた後、その一部はエクソソームによって再分泌されることも示された。したがって、WntはsFRP1/2との複合体から分泌輸送体であるエクソソームへと細胞への取り込みを介して受け渡され、その結果として拡散性が変化するとともに、何らかの生理現象を引き起こすのではないかと推察された。(2)については、マウス胚神経管背側をモデルに、Wntの拡散を抑えた変異体胚において背腹軸に沿った領域形成を解析した。その結果、この変異体においては背側の各領域が正常に形成され、領域形成はWntの拡散なしに起きるというこれまでの定説を覆す発見となった。合わせて行った細胞の系譜解析の結果も踏まえ、Wntによる領域形成に関して新たなモデルを提唱することができた。
令和5年度が最終年度であるため、記入しない。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 4件、 招待講演 1件)
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