研究課題/領域番号 |
21H02499
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研究機関 | 宇都宮大学 |
研究代表者 |
玉田 洋介 宇都宮大学, 工学部, 准教授 (50579290)
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研究分担者 |
青井 貴之 神戸大学, 科学技術イノベーション研究科, 教授 (00546997)
石川 雅樹 基礎生物学研究所, 生物進化研究部門, 助教 (00586894)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 幹細胞 / リプログラミング / 多細胞生物 / 植物 / 動物 / iPS細胞 / パイオニア因子 |
研究実績の概要 |
1, 植物と動物の幹細胞化因子を入れ替えて発現させることで、それらの因子が植物と動物において共通に幹細胞化に機能するか解明すること目標に研究を進めた。薬剤処理に応答してiPS細胞誘導因子Lin28、OCT4の過剰発現が誘導されるコケ植物ヒメツリガネゴケを作出した。また、マウス胎仔線維芽細胞からのレトロウイルスベクターによるOCT4、SOX2、cMyc導入によるリプログラミングに、Lin28のホモログであり植物幹細胞化誘導に機能するCSP1、1遺伝子の過剰発現にて植物幹細胞化を誘導できるSTEMINを加えることの効果を主に樹立効率の観点から評価した。以上に加えて、ヒメツリガネゴケの精子形成過程に起こる同調的なクロマチン凝集にDNAトポイソメラーゼ1 (TOP1) が不可欠であることを解明した。TOP1は動物でも同様の機能を有することが示唆されており、精子形成過程におけるリプログラミングの分子基盤の1つであるクロマチン凝集にも、動植物を貫く分子機構が存在することが示された。 2, 植物幹細胞化因子の機能解析を行い、動物幹細胞化因子の機能との共通点・相違点を解明することを目標に研究を進めた。STEMINが幹細胞化の際のクロマチン構造変換に機能するか検証するための単一細胞核ATAC-seqに向けて、ヒメツリガネゴケの茎葉体、および幹細胞化過程の切断葉からATAC-seqに適した単一細胞核の単離法を確立した。また、iPS細胞誘導因子と相互作用してiPS細胞誘導に機能する因子のヒメツリガネゴケオルソログ4遺伝子について、2遺伝子の破壊株作出に成功し、プロトプラストからの再生遅延を観察した。この因子は、CSP/Lin28に続く、2つ目の動植物共通の幹細胞化因子であることが示唆された。 3, DNA損傷による幹細胞化のメカニズムを解明する研究を進めた。生細胞DNA損傷マーカー株の作出を目標に、DNA損傷によって発現が著しく上昇するDNA修復の鍵因子のプロモーターレポーター株8株を作出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究における研究目標である、(1) 幹細胞化因子の機能が植物と動物を貫いて保存されているか解明、(2) 植物幹細胞化因子の機能解析と、動物幹細胞化因子との相違点の解明、(3) DNA損傷による幹細胞化機構の解明、の3つについて、全て順調な成果が得られている。さらに、精子形成過程におけるエピジェネティックリプログラミングの分子基盤の1つであるクロマチン凝集にも、TOP1を介した動植物を貫く分子機構が存在することが示され、論文として発表するなど、研究の新しい方向性が開拓された点で予期せぬ成果が得られた。以上を総合して、「当初の計画以上に進展している」とした。
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今後の研究の推進方策 |
1, 幹細胞化因子の機能が植物と動物を貫いて保存されているか解明 薬剤処理に応答してiPS細胞誘導因子Lin28、OCT4の過剰発現が誘導されるコケ植物ヒメツリガネゴケを用いて、これらの因子の過剰発現によってヒメツリガネゴケ幹細胞化が促進されるか検証する。また、その他のiPS細胞誘導因子についても誘導過剰発現株の作出を継続する。株が得られ次第、過剰発現を誘導して幹細胞化の表現型を観察する。また、マウス胎仔線維芽細胞からのレトロウイルスベクターによるOCT4、SOX2、cMyc導入による初期化にSTEMINとCSP1を加えることの効果について、樹立された株の特性評価や、STEMINおよびCSP1が初期化過程の遺伝子変動に与える影響を解明するとともに、他のベクターを用いたiPS細胞誘導系での効果などを検討する。 2, 植物幹細胞化因子の機能解析と、動物幹細胞化因子との相違点の解明 野生株とSTEMIN遺伝子欠失株の茎葉体と切断葉から核を単離し、単一細胞核ATAC-seq解析を行う。それらの結果に基づいて、STEMINがリプログラミングにおけるクロマチン構造変換に機能するのかを検証する。また、iPS細胞誘導因子と相互作用してiPS細胞誘導に機能する因子のヒメツリガネゴケオルソログ2遺伝子の破壊株について、傷害刺激による幹細胞化など、幹細胞関連の表現型をさらに詳しく観察するとともに、オルソログ全4遺伝子の破壊株を作出する。CSPについては、ヒメツリガネゴケを用いた機能解析を継続する。 3, DNA損傷による幹細胞化機構の解明 DNA損傷によって発現が著しく上昇するDNA修復の鍵因子のプロモーターレポーター株8株にDNA損傷を誘導して観察することで、DNA損傷の生細胞マーカー株を確立する。
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備考 |
1, 2021年9月15日,ワトソン株式会社/深江化成株式会社 若手研究者を応援するnote インタビュー記事 https://note.com/watson_japan/n/n8281628adab5 2, 玉田 洋介, 宇都宮大学学長表彰 優秀賞(研究)(2022年1月12日)
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