研究課題/領域番号 |
21H02501
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
笠原 博幸 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (00342767)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 植物ホルモン / オーキシン / 成長制御 / 生体防御 |
研究実績の概要 |
オーキシンは植物の成長や分化、環境応答の制御に関わる非常に重要な植物ホルモンである。これまでインドール-3-酢酸(IAA)を中心にオーキシンの研究が行われ、極性輸送によるIAAの濃度調節が細胞伸長や細胞分化に重要であることが示されてきた。最近、申請者らはフェニル酢酸(PAA)もオーキシン受容体に結合するが、極性輸送されないユニークな特性を持つオーキシンであることを発見した。さらに、PAAをシロイヌナズナに処理すると、スベリン層の形成を促進したり、植物免疫に関連する遺伝子の発現を誘導したりすることを見出した。これにより、PAAがオーキシンとして生体防御の調節に関与していることが示唆された。本研究では、シロイヌナズナのPAA生合成遺伝子を同定し、その欠損変異体を得ることで、スベリン層形成などPAAの生体防御における役割を明らかにする。 今年度、シロイヌナズナのアルデヒドオキシダーゼ(AAO)ファミリーをPAA生合成候補遺伝子として解析を進めた。シロイヌナズナには4つのAAO遺伝子が存在することから、それらの多重欠損変異体を整備した。現在、aao多重欠損変異体のPAA分析を進めている。さらに、AAO遺伝子過剰発現体の作成を進めている。 また、Penicillium chrysogenumが持つP450モノオキシゲナーゼの一種で、PAA代謝酵素として知られるPAA 2-hydroxylase(pahA)をシロイヌナズナで発現させる実験を進めた。シロイヌナズナのコドンに最適化したpahAの合成DNAをシロイヌナズナに導入した。また、P. chrysogenumのP450リダクターゼの遺伝子についても同様に合成DNAをシロイヌナズナに導入した。現在、pahAとPcP450リダクターゼの共発現系統の確立を目標に実験を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の目標としていたシロイヌナズナのaao多重欠損変異体(3重および4重欠損変異体)を整備するこができた。また、AAO遺伝子の過剰発現体の作成についても、エストラジオール誘導型発現ベクターにAAO1遺伝子を挿入したプラスミドを作成し、シロイヌナズナを形質転換する段階まで進めることができた。 さらに、Penicillium chrysogenumが持つPAA代謝酵素pahAとP450リダクターゼの合成DNAを作成し、それぞれ発現ベクターを用いてシロイヌナズナに導入する段階まで達成することができた。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、整備したaao多重欠損変異体のオーキシン分析を行い、PAA生合成へのAAOの関与を調べる。予備実験の結果ではPAA内生量がaaoの3重欠損変異体で減少していたことから、4重欠損変異体ではさらにPAA量が減少するのではないかと期待している。また、AAO1からAAO4の4つのうち、どのAAOが主要なPAA生合成酵素かを、多重欠損変異体のPAA量の分析から調べる。さらに、AAOの遺伝子過剰発現体のオーキシン分析により、PAA量が増加するか確認し、また表現型を詳しく調べる。これに加えて、酵母でAAO1遺伝子を発現させ、これに予想されるPAA生合成中間体のフェニルアセトアルデヒド(PAAld)を投与して、PAAが生成するか調べる予定である。 これらの並行して、P. chrysogenum由来のPAA代謝酵素pahAとP450リダクターゼの共発現体の作成をシロイヌナズナで進める。さらに、その植物体におけるPAA量の定量と表現型の解析を行い、PAA量の減少と、表現型を詳細に調べる。
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