研究課題/領域番号 |
21H02504
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
西村 芳樹 京都大学, 理学研究科, 助教 (70444099)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 葉緑体核様体 / DNA ligase |
研究実績の概要 |
「葉緑体核様体」とは、葉緑体独自のゲノム(chloroplast (cp) DNA) と多様なタンパク質群の複合体であり、cpDNA複製・修復、遺伝子発現、遺伝などの基盤構造である。葉緑体核様体は、間期には膜にアンカーされた球状構造として存在するが、葉緑体分裂の際、流動性が高まって葉緑体全体に拡散し、娘葉緑体に均等分配された後、ふたたび球状構造へと凝集する。そうした葉緑体核様体のダイナミックな形態変化の分子機構や機能は未だ謎につつまれている。本研究では、葉緑体核様体分裂におけるDNA ligaseの役割を明らかにすることを目指した。葉緑体で機能するDNA ligase遺伝子は、配列情報からの予測にとどまっており、生化学的に証明されたものはなかった。本研究では緑藻クラミドモナスの葉緑体核様体のプロテオーム結果から細菌型NAD依存性DNA ligaseの相同遺伝子(<I>CrLIGA</I>)に注目し、その遺伝子産物の細胞内局在と、酵素活性、さらに遺伝子欠損株と相補株の表現系解析をおこなってきた。その結果、葉緑体核様体に局在し、組換え蛋白質がDNA ligase活性を示す遺伝子CrLIGAの同定に成功した。crligA欠損株では、葉緑体核様体が恒常的に拡散し、流動性が高まることが明らかになり、このことから葉緑体核様体の構造制御においてDNA ligaseが重要な役割を果たしていることが示された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究において、葉緑体のDNA ligase遺伝子の生化学的な同定に成功した。これは我々が知る限り、陸上植物も含めて最初の報告である。野生株と葉緑体DNA ligase欠損株(crligA)の葉緑体DNAのコピー数を定量的PCR法によって比較したところ、crligA変異体では野生株の50%程度に減少していることが明らかになった。また複数の葉緑体遺伝子のmRNA蓄積量をRT-qPCRにより検証したところ、40~60%程度に減少していた。このことから、葉緑体型DNA ligaseが葉緑体DNA複製や葉緑体遺伝子発現において重要であることがわかった。またcrligA変異体はzeocinやUV照射などによるDNA障害に対する感受性が高く、CrLIGAが葉緑体DNA修復においても重要であるなど、葉緑体型DNA ligaseの多面的機能が明らかになってきた。それに加えて、葉緑体核様体の形態異常が観察されたことから、葉緑体DNA ligaseが葉緑体核様体の分裂制御においても重要であることがわかった。このことは葉緑体核様体の分裂がDNA supercoilの制御に基づいていることを示す上での重要な糸口となった。
|
今後の研究の推進方策 |
葉緑体核様体の分裂制御機構について、野生株とcrligA変異体のライブイメージングによる比較解析をもとに検証していく。さらに葉緑体核様体の形状とDNA supercoilの関係を明らかにするために、葉緑体で機能するDNA supercoilマーカーを確立して解析をおこなう。 葉緑体DNA ligaseのDNA修復における機能について、今後葉緑体DNAを特異的に二本鎖切断(DSB)する手法をもちい、葉緑体におけるDSBの導入がcrligA変異体に対しどのような影響を与えるか、また野生株のCrLIGAの発現にどのような影響を与えるかを検証していく。
|