研究課題
細胞内共生説によれば、葉緑体は真核生物の祖先にシアノバクテリア様の細菌が共生したことで誕生した。その証拠の一つとして、葉緑体DNAの存在が挙げられる。葉緑体DNAは多様なタンパク質と結合し、折り畳まれることで葉緑体核様体を構築する。葉緑体核様体は葉緑体遺伝子発現の基盤として、光合成をはじめとする葉緑体機能を支えている。我々はこれまでに、緑藻クラミドモナスをモデルとしたライブイメージング技術を駆使して、細胞分裂時における葉緑体核様体の挙動を明らかにしてきた。細胞核の染色体が分裂時に凝集して染色体構造をとり、紡錘糸によって娘細胞へと正確に分配されるのに対し、葉緑体の染色体ともいうべき葉緑体核様体が採る戦略は真逆である。間期において、一つの葉緑体あたり5-10個の球状構造として存在する葉緑体核様体は、分裂に先立って解体され葉緑体全体に分散する。そして分裂完了とともに球状構造へと再構築される。これは1990年代に提唱されたStochastic inheritanceという戦略にピタリとあてはまることが、数理シミュレーションでも実証された。我々はさらに、この可逆的な分散/再構築を実現する分子機構を追求した。野生株や変異体の詳細な観察の結果、我々は葉緑体型Holliday junction resolvaseが葉緑体核様体解体に先立って発現上昇し、この変異体では核様体解体が起きないこと、また葉緑体型DNA ligaseが葉緑体核様体再構築の前に発現上昇し、この変異体では逆に葉緑体核様体の凝集が阻害されることを明らかにした。さらに数理シュミレーションにより、葉緑体DNAのsupercoil構造が、葉緑体核様体のmobility shiftと結びついていることを示すことに成功し、DNA supercoil制御を基盤とした葉緑体DNA遺伝機構についての仮説を低yそうするに至った。
1: 当初の計画以上に進展している
DNA supercoilは、DNAのねじれによって形成される超らせん構造であり、これまでヌクレオソーム構造や遺伝子発現制御における重要性は示されてきたが、今回、葉緑体核様体のmobilityを細胞周期に応じて変化させることで、stochastic inheritanceを実現するという、全く新しい仮説に到達することができた。現在論文を準備中である。
必要なデータの収集をして、早急に論文としてまとめ、発表する。
すべて 2024 2023
すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
Plant Physiology
巻: - ページ: in press