研究課題/領域番号 |
21H02505
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
青山 卓史 京都大学, 化学研究所, 教授 (80202498)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 脂質シグナル / 細胞形態形成 / 細胞極性 / PI(4,5)P2 / PIP5K |
研究実績の概要 |
PIP5K7、PIP5K8およびPIP5K9遺伝子の組織特異的なプロモーター活性を調べた結果、それらは主に維管束を含む分裂組織で発現することが示された。さらに、PIP5K7、PIP5K8およびPIP5K9の細胞内局在性を蛍光タンパク質との融合タンパク質を用いて解析した結果、それらは根端分裂組織の表皮細胞において細胞膜に均一に局在することが示された。次に、機能欠損変異体pip5k7、pip5k8およびpip5k9 が単離され、それらの多重変異体が作製された。それら変異体を通常生育条件下で観察したところ、各単一変異体のみならずいずれの多重変異体においても明確な表現型を見出すことが出来なかったが、高浸透圧ストレス条件下では、pip5k7pip5k8pip5k9三重変異体の主根の伸長が野生型と比較して抑制されており、根端分裂組織も縮小していた。さらに、三重変異体では、根端分裂組織表皮細胞での高浸透圧ストレスに応答するエンドサイトーシスが遅延していた。また、細胞内局在性の解析においては、PIP5K7、PIP5K8およびPIP5K9が高浸透圧ストレスに応答して細胞膜付近で粒状に局在することが示された。蛍光分子マーカーを用いた解析においては、細胞膜上のPI(4,5)P2の量が三重変異体では野生型に比べて有意に少ないことが示された。 これらの結果から、PIP5K7、PIP5K8およびPIP5K9は重複して根端分裂組織表皮細胞の細胞膜上でPI(4,5)P2を産生し、高浸透圧ストレス下においてエンドサイトーシスを促進させることで主根の伸長に寄与することが明らかとなった。このことにより、陸上植物において保存性の高いPIP5K7-9オルソログ遺伝子群の機能が、植物の発生・分化ではなく、むしろ環境応答に関わるものである可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
シロイヌナズナのPIP5K7、PIP5K8およびPIP5K9が根における高浸透圧ストレス応答に関与することが示された。また、陸上植物におけるPI(4,5)P2シグナルの重要な役割の一つとして、高浸透圧ストレス下でのエンドサイトーシスの促進が明らかにされた。これらの結果は、高等植物におけるホスホイノシチドシグナルの細胞生物学的機能の解明を大きく進展させるものであり、本研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
根毛に関してはPIP5K2、PIP5K3および植物のRho-type GTPaseの一つであるROP2が 、花粉に関してはPIP5K4、PIP5K5、PIP5K6およびROP1が尖頂なシグナルピー クをもたらすためのフィードフォワードループの構成因子であることが想定されているので、その検証を行うことを中心として進める。 PIP5K遺伝子の多重変異体をスクリーニングし、根毛が形成されない多重変異体を得る。この多重変異体を用いてROP2の動態を観察するなどの解析を進め、根毛形成予定位置の平面内極性確立においてPIP5K、ROP2以外のタンパク質因子は必要か、PI(4,5)P2は どのようなタンパク質因子を細胞膜上にリクルートするのか、解析を行う。 pip5k4pip5k5pip5k6三重変異をもつ花粉を解析し、PIP5Kの花粉形成および発芽における機能を調べる。その結果を基に、花粉の発芽においてPIP5K、ROP1以外のタンパク質因子は必要か、PI(4,5)P2はどのようなタ ンパク質因子を細胞膜上にリクルートするのか、解析を行う 。 気孔孔辺細胞に関しては、表現型スクリーニ ング系を用いて細胞形態形成に表現型をもつPIP5Kの多重変異体を同定し、その後それらのPIP5Kがどのような制御 因子と相互作用するのかなどの解析を行う。 以上の解析結果をまとめて植物細胞の極性確立機構を明らかにする。
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