研究課題/領域番号 |
21H02510
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
高橋 裕一郎 岡山大学, 異分野基礎科学研究所, 特任教授 (50183447)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 光合成 / 光化学系 / 環境順化 / ダイナミクス / 分子集合 / 分集合因子 / アンテナ複合体 / 緑藻クラミドモナス |
研究実績の概要 |
(1)光化学系I(PSI)複合体の分子集合因子のうち、好気条件下でPSI複合体の分子集合に必須な役割を果たすCGL71(相同なタンパク質として高等植物ではPYG7、シアノバクテリアではYcf37と命名)の機能解析を進めた。CGL71は酸素に不安定であるPSIの電子受容体である3つのFe-Sクラスターの分子集合に関与すると推測されていた。HAタグを融合したCGL71をアフィニティー精製の結果、CGL71はFXを結合する反応中心サブユニット(PsaAとPsaB)と結合するが、FAとFBを結合するPsaCとは親和性を示さなかった。以上の結果から、CGL71はFXの4Fe-4SクラスターがPsaAとPsaBの間に結合する過程を阻害する酸素から保護する役割を果たすことを示すことができた。 (2)S35を用いたタンパク質のパルス・チェースラベル実験から、PSI複合体の分子集合を介添えする過程でYcf3とCGL71が速やかに代謝回転することを示した。葉緑体タンパク質の分解に重要な役割を果たすFtsHプロテアーゼの活性が点変異により減少している変異株(ftsh1.1)のPSIタンパク質をウェスタン分析により調べたところ、その蓄積が野生株よりかなり減少していることが分かった。このPSIの減少とFtsHによるYcf3とCGL71の分解の関係については解析中である。 (3)クラミドモナスを嫌気条件下で培養すると、一部のPSIが二量体を形成することが分かった。この二量体を精製し、クライオ電子顕微鏡で構造解析を進めた。 (4)PSIに電子を渡し、サイクリック電子伝達系ではPSIから電子を受け取るシトクロムb6f複合体のpetA遺伝子にヒスチジンタグを融合した形質転換体を作出した。さらに複合体をアフィニティークロマトグラフィーにより高い純度で精製した。この複合体の構造をクライオ電子顕微鏡で解析中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
(1)光化学系I(PSI)複合体の分子集合因子であるCGL71がFXを結合する反応中心サブユニット(PsaAとPsaB)と結合することを示し、CGL71はFXの4Fe-4SクラスターがPsaAとPsaBの間に結合する過程を阻害する酸素から保護する役割を果たすことを示すことができた。この成果をThe Plant Journalに出版した。 (2)スウェーデンとドイツの共同研究により、緑藻クラミドモナスの光化学系Ⅰ複合体の二量体の構造をクライオ電子顕微鏡により高い分解能で決定できた。この成果を投稿準備中である。 (3)PetAサブユニットにヒスチジンタグを融合したシトクロムb6f複合体をアフィニティークロマトグラフィーにより高い純度で精製した。大阪大学との共同研究により、この複合体の構造をクライオ電子顕微鏡で解析中である。これまでのところ、かなり高い分解能で構造が解明されつつある。特に、PetCサブユニットの動態についての新しい知見が得られつつある。
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今後の研究の推進方策 |
(1)緑藻クラミドモナスの光化学系Ⅰ複合体の二量体の構造を国際誌に出版する。 (2)シトクロムb6f複合体の構造をクライオ電子顕微鏡により決定する。 (3)PSIのアンテナ複合体であるLHCIの分子集合に必須な因子であるcpSRP43/cpSRP54とAlb3.1をアフィニティー精製しその構造と機能を解析する。また、これらが形成する複合体の構造をクライオ電子顕微鏡で決定する。 (4)PSI複合体の分子集合因子が形成する複合体の構造をクライオ電子顕微鏡により決定する。 (5)LHCIの欠損株を用いて1種のLHCIが欠損した時の他の9コピーのLHCIの構造や機能への影響を解析し、PSI-LHCI超複合体における励起エネルギー移動の機構についての新知見を得る。
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