研究実績の概要 |
気孔の孔辺細胞には葉緑体が存在し、葉肉細胞の葉緑体とは異なる形態的特徴を持っていることが知られているが、その形成メカニズムに関してはほとんど分かっていない。我々は孔辺細胞の脂質代謝系が葉肉細胞とは異なるユニークなものであり、小胞体から葉緑体への脂質輸送が孔辺細胞の葉緑体形成において必須であることを明らかにした (Negi et al., 2018)。このことは、孔辺細胞が器官特異的な葉緑体形成メカニズムを発達させていることを示唆している。本研究では、孔辺細胞の葉緑体形成メカニズムを分子レベルで解明するために、エチルメタンスルホン酸 (EMS) 処理をしたシロイヌナズナのM2植物約10,000個体から、蛍光顕微鏡を用いた順遺伝学的スクリーニングにより孔辺細胞のクロロフィル蛍光が野生型に比べ低下している変異体を複数単離し、achs (achlorophyllous stomata) と命名した。その1つであるachs4 変異体は孔辺細胞特異的な葉緑体形成不全の表現型を示し、光やCO2に対する気孔応答性が損なわれていた。また、その原因遺伝子ACHS4は脂質合成酵素の一種であることを明らかにした。脂質合成機能が孔辺細胞と葉肉細胞の葉緑体形成に及ぼす影響を調べるために、孔辺細胞および葉肉細胞プロトプラストを用いてリピドーム比較解析を行った。その結果、achs4変異体では脂肪酸含量が野生型に比べ減少していた。さらに、脂肪酸から合成されるリン脂質と糖脂質のうち、achs4変異体の孔辺細胞ではリン脂質に比べ、葉緑体形成に必要な糖脂質の含量が低下していた。一方、葉肉細胞では糖脂質に比べリン脂質含量が大きく低下していた。このことは、脂肪酸不足時のリン脂質と糖脂質の合成バランスにおいて、孔辺細胞が葉肉細胞とは異なる優先順位付けをおこなっている可能性を示唆する。
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