研究課題/領域番号 |
21H02534
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研究機関 | 甲南大学 |
研究代表者 |
久原 篤 甲南大学, 理工学部, 教授 (00402412)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 線虫C. elegans / 周回性神経回路 / 温度順化 / 脂肪 |
研究実績の概要 |
環境温度の変化は動物の生死に直結するため、温度の感覚や応答に関わる脳神経系と組織ネットワークの仕組みを解き明かすことは重要である。本研究では、シンプルな実験動物C. elegansの低温耐性・馴化をつかい、温度受容から神経回路、そして組織ネットワークに至る温度情報の処理システムを解析している。解析に使う組織ネットワークは、頭部の温度受容ニューロンが尻尾の介在ニューロンに接続し、それが再度、頭部のハブ介在ニューロンにフィードバックする全身を周回する神経回路と、低温耐性に関わる筋肉や腸などを含む組織ネットワークである。 当該年度は、温度馴化時に温度を数時間変化させた際の中性脂肪酸の変化が実際に起き、個体の温度馴化と関係していることが示唆された。前年度までに、温度馴化に関わる神経回路で発現している神経伝達物質であるグルタミン酸をシナプス小胞に取り込む分子やグルタミン酸受容体の変異体における全身周回性神経回路の温度応答活性をカルシウムイメージングなどを用いて測定し、実際に、グルタミン酸情報伝達が温度馴化神経回路において必須であることが示唆された。さらに、頭部の介在ニューロンRMGにおけるグルタミン酸受容体を細胞特異的にRNAiしたところ、温度順化の異常が見られたことから、実際にRMGが受け取るグルタミン酸が温度順化に関わることが示唆された。また、低温耐性に関わる頭部の筋肉で機能する新たな分子が見つかり、低温耐性に関わる化学物質が作用する遺伝学経路が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度は、温度馴化時に温度を数時間変化させた際の中性脂肪酸の変化が実際に起き、個体の温度馴化と関係していることが示唆された。前年度までに、温度馴化に関わる神経回路で発現している神経伝達物質であるグルタミン酸をシナプス小胞に取り込む分子やグルタミン酸受容体の変異体における全身周回性神経回路の温度応答活性をカルシウムイメージングなどを用いて測定し、実際に、グルタミン酸情報伝達が温度馴化神経回路において必須であることが示唆されたため。さらに、頭部の介在ニューロンRMGにおけるグルタミン酸受容体を細胞特異的にRNAiしたところ、温度順化の異常が見られたことから、実際にRMGが受け取るグルタミン酸が温度順化に関わることが示唆されたため。また、低温耐性に関わる頭部の筋肉で機能する新たな分子が見つかり、低温耐性に関わる化学物質が作用する遺伝学経路が得られたため。
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今後の研究の推進方策 |
次年度の課題としては、温度馴化の際に腸でどのような分子機構が機能することで低温耐性の獲得や消失が起きているかをトランスクリプトーム解析などから調べる必要がある。また、そのトランスクリプトーム解析から得られた遺伝子に関して、変異体を用いて温度馴化や低温耐性を測定し、実際にそれらの遺伝子が温度馴化や低温耐性に関わっているかを調べる必要がある。また、全身周回性の神経回路と腸を繋ぐ新たな神経細胞の同定も行う必要がある。
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