研究課題/領域番号 |
21H02537
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
土畑 重人 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (50714995)
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研究分担者 |
北條 賢 関西学院大学, 生命環境学部, 准教授 (70722122)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 階層性進化 / 社会性昆虫 / 比較ゲノミクス |
研究実績の概要 |
コロナ禍によりアミメアリ寄生系統の入手に大きな制約が生じたことから,2021年度は研究協力者の機関で取得されたアミメアリ通常系統・寄生系統(三重県産)のドラフトゲノムに基づくバイオインフォマティクス解析を中心に行った.BRAKER2を用いた遺伝子予測の結果,遺伝子数は他種での既知情報に比べて3倍程度の多さとなり,他種の遺伝子情報やアミメアリのトランスクリプトームを使用した推定の精緻化が必要である. ドラフトゲノムが利用可能となったため,代表者が以前に取得したゲノムワイドSNP(ddRAD-seqによる)データを,マッピングによって再解析した.SNPを得た個体からは同時に個体の絶対適応度の情報も得られているため,個体適応度を各SNPのアリル頻度で回帰するゲノムワイド関連解析(GWAS)を適用できる.代表者は,個体のSNPのみならず,巣仲間の平均アリル頻度をも説明変数に含めた重回帰によって,社会性をもつ生物における個体の表現型が,個体自身の遺伝子型のみならず,相互作用相手の遺伝子型からも影響を受けるという事実を統計的に表現した「インダイレクトーム解析」を開発した.アミメアリ実データを用いた解析は,現在も進行中である. また2021年度は,理論研究に多くのエフォートを割いた.社会性昆虫の協力行動の進化を説明する理論である包括適応度理論を,他種との相互作用の進化にも拡張することを試み,遺伝共分散が進化の駆動因となるさまざまな種間相互作用について,理論解析を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
コロナ禍に伴い,野外調査の遂行が思うように進まなかったことに加えて,研究協力者の来日が遅れたために研究室におけるNGS解析への着手が遅れたため.執行できなかった経費は繰り越し手続きを行った.
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今後の研究の推進方策 |
前年度取得したアミメアリの「寄生系統」「通常系統」のドラフトゲノム配列に基づき,今年度はそれらの比較ゲノム解析,脳のトランスクリプトーム(RNA-seq)解析を行う.これらから,寄生系統の適応に貢献した進化的新規性の特定を試みる.特に,アリの社会行動において重要な嗅覚受容体(OR) 遺伝子ファミリーに着目している. 新たに開発した,ゲノムワイド関連解析(GWAS)の応用「インダイレクトーム解析」を,統計手法,実データの質双方でより精緻なものとする. 前年度実施が困難であった野外調査についても,今年度は情勢が許す限り積極的に遂行する.比較ゲノム解析に必要な日本各地のサンプル取得と並行して,コロニー階層の統合性を高める通常系統の対抗進化を評価するため他コロニー個体の侵入に対する巣仲間識別行動に着目した解析を行う.
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