研究実績の概要 |
現生コウモリ類のもつエコーロケーション能の進化は一回起源なのか,あるいは独立に複数回起源したのか,未だ決着がついていない.特に,古生物学者を中心とした論陣が取る一回起源説と分子進化学者が取る独立起源説の対立が続いている.本研究は超音波の発声器官と受信器官の胎児期発生に着目し,比較解剖学とゲノミクスを組み合わせた全く新しい視点から検証を行い,コウモリ類におけるエコーロケーション能の進化的起源の解明を目指している.課題期間中,新型コロナウイルスの感染拡大継続により国内調査や海外渡航の困難,調査許可が下りない状況が続いたが,繰越年度となった2022年よりようやく野外調査が進められるようになった.2022年に新潟県および北海道にてそれぞれキクガシラコウモリおよびヒナコウモリの捕獲調査を行い,胎子標本の収集を行なった.また,ベトナム科学アカデミーの協力のもと,ベトナムにおいてオオコウモリ,キクガシラコウモリ,カグラコウモリの胎子標本の収集を進めた.集めた胎子標本はカルノア固定,PFA固定,RNAlater保存を行なった.必要な発生ステージ全てを網羅するには至っていないが,収集標本を用いて,免疫組織化学染色およびトランスクリプトーム解析を進めた.渦巻管,喉頭筋群,喉頭軟骨,舌骨を対象として,発生に関与するパターニング遺伝子(Tbx1, Bmp4, Fgf3, Isl1等)と器官分化遺伝子(Sox5, Sox6, Sox9, Acan, Col1A1, Col2A1, Scx, MyoD1, Myf5等)の遺伝子について時間的・空間的な発現パターンの類似性を収集したコウモリ類,マウス,スンクスで比較を進めた.
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