野生動物の本能行動の多様化機構の解明は、多様性生物学における大きな挑戦である。特に繁殖行動形質は適応度に直結する形質であり、近縁種間や種内集団間においても適応的多様化していることは珍しくない。繁殖行動形質に多様化をもたらす遺伝的変異はどのようなものであろうか。本研究は、想定進化モデルにおける研究遂行上の利点を有するトゲウオ科魚類イトヨGasterosteus aculeatusにおける雄の繁殖縄張り行動をモデル系とし、内分泌基盤を介したオミクス解析技術を駆使し、未開拓領域である野外における行動多様化の遺伝基盤を描き出すことを目的としている。 本年度は、前年度までの研究で見出した現象(つまり、同様の繁殖縄張り行動表現型を示す系統的に独立した集団間の比較から、行動の平行進化の背後にある内分泌基盤には異なる様式があることを示唆)に関して、下記の(2)の現象のより詳細な解析を進めた。脳の比較トランスクリプトーム解析および異なる繁殖縄張り行動発現を示す近縁集団のF1ハイブリッドを用いた脳のアリル特異的発現解析の結果、止水域の集団における強い繁殖縄張り行動発現には、(1)精巣におけるアンドロゲン合成能の変異(研究代表者の先行研究で既に解明済)と(2)脳におけるニューロステロイド合成(代謝)パターンの変異という異なる進化遺伝機構が存在することが強く示唆された。さらに実際のそれぞれの系における有力な候補遺伝子を特定した。
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