東北地方から関東地方にかけての左巻き種であるヒダリマキマイマイと右巻きのアオモリマイマイなどの集団を網羅的な分子系統推定と、集団遺伝構造の分析を行った。特にRAD-seq、Mig-seqを用いて行い、集団内、集団間の遺伝的交流の状態について明らかにした。その結果、ヒダリマキマイマイと右巻きのアオモリマイマイは地域によって、生殖的隔離のレベルが異なっており、特に東北地方南部では場所によりほとんど生殖的隔離がなく、右巻きと左巻きが交雑しつつ多型として集団中に維持されていることが推定された。これに対して、それ以外の地域でヒダリマキマイマイと右巻きのアオモリマイマイが共存する地点では、これらの間に生殖的隔離が存在し、現在は右巻きと左巻きの交配が阻害されていることが分かった。また一部の地域では、部分的な遺伝的交流があり、生殖的隔離が不完全である場合があることも推定された。 このことから、殻の巻き方向の違いは、かなりの程度生殖的隔離に関与しているものの、従来の平巻き種における巻き方向の違いによる、完全な生殖的隔離の成立については、少なくともマイマイ属においては可能性が低いことが確認できた。またこれら巻き方向の違う個体の交尾は、一方向的である場合が多く、部分的に遺伝子流動が起きる場合が多いと考えられる。これらの交尾は、それを生じた集団の生殖器形態の特徴などから、柔軟な交尾行動とそれを可能にする生殖器形態によるものである可能性が示唆された。 同所的に生息し互いに交配しているヒダリマキマイマイとアオモリマイマイの個体について全ゲノム解析を行い、塩基配列を決定し、アノテーションを行った。ゲノムサイズは約2Gbであった。これらの種の全ゲノム決定のいくつかの困難な点を解消するため、近縁なオナジマイマイの全ゲノムを決定してアセンブルした。
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