研究課題
日本には植物の生育阻害を起こす蛇紋岩土壌が島状に分布し,キク科アキノキリンソウはこの特殊土壌に繰り返し適応している.本研究では,蛇紋岩型と一般型の集団ゲノム分析を行うことで土壌適応に関わる変異を特定し,離れた蛇紋岩地で同じ変異が適応に関与しているかを調査する.平行選択されている変異について,一般土壌地における分布を調査することで,本種が新規環境に出会った際の潜在的な適応力を解明する.令和4年度は,東北地方・三河地方・四国地方の蛇紋岩地帯に生育するアキノキリンソウの遺伝分析用試料を収集するため,各地域でフィールド調査を実施した.調査の結果,東北地方では複数の蛇紋岩地でアキノキリンソウの蛇紋岩型生態型の存在を確認できたが,三河地方と四国地方ではそうした生態型が分布しないことが明らかになった.そのため,三河地方と四国地方のアキノキリンソウを解析対象から除いて,令和3年度に採取済みの北海道・中部・近畿・九州地方のアキノキリンソウと,東北地方で新たに採取したアキノキリンソウの生態型ペアをゲノム比較解析に供することとした.Poolseq法による全ゲノム解析に先立ち,上記の5地域生態型ペアを対象にRADseq解析(ゲノム縮約解読法のひとつ)によって各地の蛇紋岩型集団の進化的起源を推定した.その結果,当初の予想通りに蛇紋岩型生態型は同地域内の一般土壌型と最近縁の関係にあり,アキノキリンソウが各地域で独立に蛇紋岩地に適応したことが示唆された.そこで,同じ試料に基づいて5地域×2生態型=10集団分のPoolseqライブラリを調整し,次世代シークエンサーを用いて平均x55のゲノム深度で塩基配列の取得を行った.得られた塩基配列データは,整備済みのアキノキリンソウの参照配列にマッピングして多型検出を行い,土壌型の違いに応じて分岐選択を受けているゲノム領域の特定を進めているところである.
3: やや遅れている
令和4年度の研究実施計画では,Poolseq法によって取得した塩基配列データの解析を進め,pool間で大きく分化した選択候補領域の特定を行うところまで研究を進める予定であった.しかし今年度は,三河地方と四国地方での蛇紋岩地でアキノキリンソウの自生集団をなかなか見つけることができず,複数回のフィールド調査を重ねたことで分子実験の進捗が遅れてしまった.
令和4年度はPoolseqライブラリの塩基配列を取得し,参照ゲノム配列にマッピングして遺伝的多型を得るところまで研究を進めることができた.当初の計画に比べてデータ解析面での遅れが生じているが,この後の解析は研究申請者が習熟しているので問題なく進められると考えている.令和5年度前期までに土壌生態型pool間で分岐選択を受けていると考えられるゲノム領域を特定したうえで,それらの候補領域が地域間でどのくらい繰り返し分化しているのかを集計する.8月以降には,候補領域を対象としてpoolseq解析に供しなかった多数の一般型集団でリシークエンス解析を行い,平行的に生じている土壌適応がどの程度既存変異によって生じたのかを推定する予定である.
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