本研究は,交尾器形態の違いが機械的生殖隔離をもたらすオオオサムシ類について,種分化過程における交尾器形態とゲノムの分化機構と,形態の遺伝発生学的基盤を明らかにすることを目的とする.種間交雑に伴う形態とゲノムの分化機構を解明するために,分布を接する近縁種を対象に,行動実験によって交尾器形態の形質置換をもたらした自然淘汰を定量するとともに,集団ゲノミクス解析により,自然淘汰と遺伝子流動の影響下にあるゲノムの分化動態を解明することと,マイクロCTとin situ hybridizationを用いた形態形成・遺伝子発現解析により,交尾器形態の発生過程と,形態の種間差に関わる遺伝的背景を解明する. 交尾器の形質置換をもたらす自然淘汰を,複数の集団において定量することに成功し,交尾器の柔軟性の変異との関連を示唆するデータと合わせて,日本生態学会大会にて発表した.この結果を基に,現在は論文執筆の段階にある.また,交尾器形態変異を幾何学的形態測定学的手法により定量し,柔軟性との関係をさらに詳細に解析することを進めている.集団ゲノミクス解析は,既にデータを取り終え,研究協力者の助力を得て解析を進めている.交尾器の形態形成解析については,最も巨大な交尾器を持つドウキョウオサムシの結果について日本生態学会大会にて発表すると共に,論文を投稿中である.また,in situ hybridizationによる遺伝子発現解析をオサムシの交尾器発生過程に適用するプロトコルと共同研究者と共に完成させ,実際の解析に着手しつつある.
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