研究課題/領域番号 |
21H02570
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
大橋 順 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (80301141)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | オセアニア人 / ネアンデルタール / デニソワ / 適応的移入変異 |
研究実績の概要 |
現生人類の中で、旧人(ネアンデルタール人、デニソワ人)に由来するゲノムを最も多く保有しているのは、パプア人やメラネシア島嶼民などのオセアニア地域の人々である。ヒトはオセアニアへ二度進出しているが、旧人からの移入変異、特にエネルギー倹約型の移入変異がオセアニア地域への進出過程で適応的に作用した可能性がある。本研究では、オセアニアの代表的な集団(パプア集団、メラネシア集団、ポリネシア集団、ミクロネシア集団)を対象にゲノム解析を行い、(i)旧人からオセアニア人への移入変異、(ii)エネルギー代謝と関連する移入変異、(iii)適応的移入変異を調べ、ヒト進化遺伝学的視点から、オセアニアへの進出に寄与した旧人からの遺伝子移入の実態を明らかにすることを目的とする。 オセアニア集団を対象に旧人からの遺伝子移入領域を調べたところ、2番染色体のGCG遺伝子コード領域において、先行研究(Vernot et al., 2016)と同様に遺伝子移入の痕跡が観察された。特に、トンガではGCG遺伝子上のネアンデルタール人由来変異の頻度が当該領域で最も高かった。そこで、関連解析を行ったところ、GCG遺伝子領域中のネアンデルタール人由来変異rs34211565-Gは、トンガ人において中性脂肪値の減少と有意に関連していた(P-value=0.037)。 現在、他の遺伝子移入領域中に存在するSNPについて、パプア人約700名、メラネシア人約300名、ポリネシア人約150名、ミクロネシア人約100名を対象に、肥満・脂質代謝・糖代謝との関連を検討している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
オセアニア集団を対象にした全ゲノム配列解析が順調に進んでいるため。
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今後の研究の推進方策 |
今後、2通りの方法で、遺伝移入領域に作用した正の自然選択の痕跡を検出する。 1)アリル頻度を利用する方法:各集団において頻度の高い旧人由来変異には正の自然選択が作用した可能性がある。そこで、先行研究(Kimura et al., 2008)によって求めたオセアニア集団間の混血割合を用いて、遺伝移入セグメントの頻度が極端に高くなっているオセアニア集団を検出する。 2)SNP間の連鎖不平衡を利用する方法:本研究では、standerdized iHS(Voight et al., 2006)を用いて最近(数千年前から数万年前)起きた正の自然選択の痕跡を検出する。
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