研究課題/領域番号 |
21H02571
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
中山 一大 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 准教授 (90433581)
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研究分担者 |
斉藤 昌之 北海道大学, 獣医学研究院, 名誉教授 (80036441)
西村 貴孝 九州大学, 芸術工学研究院, 講師 (80713148)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ヒト / 熱産生能力 / 褐色脂肪組織 / ゲノム / 進化 |
研究実績の概要 |
現代人で観察される熱産生機能の多様性の進化基盤を解明する目的で、主要な熱産生器官である褐色脂肪組織の活性の測定実験とゲノムDNAおよび関連する各種表現型情報の収集を、主に東アジア成人を対象に実施した。さらに、収集した試料・情報をもちいて解析から、褐色脂肪組織活性の多様性を規定する遺伝子を発見した。 1)褐色脂肪組織活性測定実験:関東在住の健康な成人男女約30名に対して実施した。参加者は19℃に維持した実験室で寒冷曝露を受け、その間の体表面温度の変化を、サーマルカメラで測定した。褐色脂肪組織の代表的な局在部位である鎖骨上窩部と、対照部位である胸部の温度の差分をもって被検者の褐色脂肪組織活性を評価した。同時に、身体測定値と生活習慣等に関するアンケート情報も収集した。ゲノムDNAは参加者より供与をうけた唾液より抽出した。前年度から継続して実施している陽電子断層撮影法(PET-CT)を用いた褐色脂肪組織活性測定実験も、北海道在住の日本人成人男女64名に対して実施した。 2)褐色脂肪組織活性の個人差に寄与するゲノム領域の探索:βアドレナリン受容体遺伝子(ADRB1~3)の一塩基多型(SNP)を対象とした関連解析研究から、β2型受容体をコードするADRB2遺伝子のSNPが、PET-CTで評価した褐色脂肪組織活性と有意に関連していることを発見した。このSNPは、サーマルカメラ実験に参加した別の集団でも褐色脂肪組織活性と関連していた。また、人工気候室を用いた寒冷曝露実験の被験者集団では、褐色脂肪組織活性が高いと想定される遺伝型の保有者は、非保有者にくらべてより高い深部体温を維持し、熱産生の指標である酸素消費量も高いかった。げっ歯類を対象とした研究では、β3型受容体が褐色脂肪組織の機能に深く関わっていることが証明されていたが、今回の成果は、ヒトではβ2型の重要性を示唆するものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度までの被験者収集の遅れはほぼ解消され、収集したゲノム試料をもちいた遺伝解析を実施することができた。さらに、予備的に実施したβアドレナリン受容体遺伝子群のSNPの調査から、これまでの主にげっ歯類を対象した細胞生物学的な研究から褐色脂肪組織の熱産生制御に重要な役割を果たすとされてきたADRB3遺伝子ではなく、ADRB2遺伝子がこの経路に強く寄与している可能性が浮上し、ヒトの褐色脂肪組織の進化的な特殊性と遺伝的多様性を考察する上で非常に興味深い成果が得られている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、収集したゲノム試料と各種表現型情報を駆使して、褐色脂肪組織活性の多様性を規定する新規の遺伝子のゲノムワイド探索を実施する。同定される遺伝子領域のゲノム多型情報をもとに、この多様性が形成された進化イベントの実態に迫る予定である。
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