環境中からもたらされる様々な感覚情報を適切な行動の実行につなげることは脳神経系の最も基本的な機能のひとつである。本研究ではこれを可能とする神経回路の分子発生機構を、ショウジョウバエ幼虫をモデルとして探ることを目的とした。申請者はこれまでに幼虫の前進、後退運動の選択において 決定的な役割を果たす司令ニューロンWaveを発見している。Waveは体部位によって軸索突起の伸長パターンを変化させることで、異なる体部位 への接触刺激を異なる行動へと結びつけるノードとしての役割をもつ。申請者らはさらにWaveの適応的な軸索走行制御において決定的な役割を果たす軸索誘導分子の候補としてDWnt4およびその受容体Fz2を同定していた。昨年度までの計画においてDFz2を機能損失すると従来体の前方へと軸索を伸ばす前方Waveが、体の後方へと軸索を伸ばすようになり、それに伴って誘導する行動のパターンにも変化が見られた。DWnt4は体の後方において高い濃度勾配をもつのに対しFz2は前方で高い発現を示すことから、DWnt4がFz2を介して、前方Waveの軸索に対して反発的に働きかけることにより、後方ではなく前方へと伸長するよう制御していることが示唆された。今年度計画においては、従来Fz2の発現が低い後方WaveにおいてFz2を強制的に高発現したときに、このニューロンの軸索投射にどのような影響が出るかを調べた。その結果、軸索の後方伸長が短縮する結果が得られたとともに、一部のWave では後方伸長の欠損も見られた。この結果は、DWnt4がFz2を介して、a-Waveの軸索に対して反発的に働きかけるという上記の仮説をさらに裏付けるものである。
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