研究課題/領域番号 |
21H02577
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
久場 博司 名古屋大学, 医学系研究科, 教授 (10362469)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 軸索 / 神経回路 / 細胞骨格 |
研究実績の概要 |
軸索起始部(AIS)は活動電位の発生を担う軸索ドメインであり、神経活動決定の要である。本研究では、音源定位に関わる脳幹の聴覚回路を対象にAIS可塑性の分子基盤、さらには回路形成・動作に果たす役割の解明を目指している。 本年度は、活動依存的なAIS短縮の細胞内シグナル経路について、切片培養標本を用いた薬理スクリーニングを行った。まず、Caイオンの関与について、種々の電位依存性Caチャネル、イオンチャネル型や代謝型グルタミン酸受容体、リアノジン受容体の阻害剤の効果を調べたところ、いずれの薬剤もAISの短縮を阻害したことから、AIS短縮には様々なCa経路が関わり得ることが分かった。そこで、Ca下流の細胞内シグナルの検討を行ったところ、アデニル酸シクラーゼ(DDA、SQ22536)、プロテインキナーゼA(KT5720)、MEK(U0126、PD98059、AZD6422)、cdk5(Roscovitine)の阻害剤により短縮が抑制される一方で、アデニル酸シクラーゼの活性化剤(FSK)や膜透過型cAMP(8-br-cAMP)は、AIS短縮を生じることを見出した。AISには細胞骨格の一種である微小管が分布し、AISの足場分子であるankyrinGを繋ぎ留めていることが知られている。一方、MEKの下流のERKやcdk5は微小管の重合・脱重合を制御する。従って、さらにAIS短縮への微小管の安定性の関与について調べたところ、微小管の安定化剤であるTaxolによりAISの短縮は阻害された。一方、アクチンの安定化剤であるJasplakinolideによる効果は認めなかった。以上のことから、活動依存的なAIS短縮(AIS可塑性)は、cAMPを起点としたシグナルが微小管を不安定化させることにより生じる可能性があることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
AIS可塑性の細胞内シグナルの探索については順調に進んでいる。一方、可塑性前後の遺伝子発現の網羅的解析を行う予定であったが、試料が微量であり、十分量を得るには予想外の時間を要しているため。
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今後の研究の推進方策 |
今年度に同定したAIS可塑性の細胞内シグナル経路が微小管の脱重合を引き起こすメカニズムの解明を目指す。特に細胞骨格の制御に関わることで知られるcdk5に着目して、主に分子生物学的手法を用いた検討を行う。具体的には、電気穿孔法により聴覚神経細胞へCdk5自体やCdk5の不活性型変異体を過剰発現することのAIS長に対する効果を調べる。Cdk5の活性化にはp35が必要であることが知られているため、p35の過剰発現の効果についても調べる。
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