本研究では、mRNA上にもっとも豊富なメチル化アデノシン塩基(m6A)に注目し、神経細胞微小管動的末端における局所翻訳制御を通して、活動依存的な回路形成と精神機能に繋がるRNAメチル化修飾の役割を明らかにすることを目的としている。その役割の解明は、我々が周りの環境をいかに正しく認知し、蓄積した記憶情報に基づいて、適切な行動を出力することができる機能を発達させたか、また精神疾患をより深く理解することに役に立つ。そのため、我々はRNAのm6A修飾が神経微小管末端における局所翻訳を通して、細胞骨格の構造と機能を活動依存的に制御し、活動依存的な神経発達に役に立つことを仮説として下記のとおり実験を行い研究成果を得られた。
1. バイオインフォマティクスツールを用いてヒトRNA配列データベースを解析し、うつ病や心的外傷後などのストレス誘発性精神病理と関連するエピトランスクリプトーム制御因子の変化を探索した。その結果、疾患脳におけるエピトランスクリプトーム景観の性差依存的、行動関連的な変化が示唆された。2. 認知機能の発達と衰退のエピトランスクリプトームによる制御に関する文献調査を行い総説を執筆し発表した。3.生育環境によるマウスモデル認知機能の発達への影響を明らかにした論文を発表した。4. 神経軸索における局所翻訳に関わるAPCタンパク質を中心とするRNA顆粒の生成にm6A結合タンパクYTHDF1がかかわることを明らかにしBioRxivに発表した。
以上の結果をまとめると、局所翻訳制御を通して、活動依存的な回路形成と精神機能に繋がるRNAメチル化修飾の役割が確かなものである。その詳細を今後のプロジェクトで明らかにしていきます。
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