| 研究実績の概要 |
「遺伝子」と「環境」の相互作用によって機能を獲得する脳のメカニズムは神経科学の重要な課題である。これまで、相互作用の場として、DNAやヒストンの化学修飾によるエピジェネティクスが研究の中心になってきたが、我々は最近、シナプスの形成と機能を制御する精神疾患関連遺伝子のRNAがメチル化修飾をうける現象を発見した (Nat Neurosci, 2018; Oxford handbook, 2020; TINS, 2020)。既存モデルと比べ、RNA修飾は、より迅速かつ柔軟に環境変化に対して応答できる。局所での環境変化を素早く検出し、遺伝子発現を迅速に制御しうるRNA化学修飾は、活動依存的に回路発達を制御する全く新しく、かつ根源的なメカニズムの可能性がある。本研究では、mRNA上にもっとも豊富なメチル化アデノシン塩基(m6A)に注目し、神経細胞微小管動的末端における局所翻訳制御を通して、活動依存的な回路形成と精神機能に繋がるRNAメチル化修飾の役割を明らかにする目的で研究を行った。
具体的には、神経の繋ぎがもっとも活発に形成される生後３週間における海馬でのm6A発現変化をゲノムワイドで網羅的に調べシナプス形成の盛んな時期にともなってRNA修飾が増加するエヴィデンスを見出した。さらに、tRNAにおける修飾や進化的角度からpseudogeneにおけるRNA修飾について加速することを見出し、ヒトの脳機能における発達と進化との関連性が示唆された。
さらに死後脳を用いたRNAの定量的に評価し、うつ病を患っている女性と男性患者からm6Aの関わり方が異なることを見いだし、精神疾患とRNA修飾の関係性は性別に依存することを明らかにした。
2022年度には、以上の研究過程で、成果をまとめ発表した。
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