研究課題/領域番号 |
21H02594
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
柳下 祥 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 講師 (50721940)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ノルアドレナリン / ミクログリア / スパイン / PFC |
研究実績の概要 |
グルタミン酸の2光子アンケージングによるスパイクタイミング依存的可塑性(STDP)プロトコルを用いて、マウスの内側前頭葉皮質(mPFC)の急性スライス標本第5層錐体ニューロンの単一スパインにおける可塑性のシグナル伝達経路を調査したところ、STDP刺激により、幼若マウス(P16-21)ではスパイン頭部増大が見られたが、成体マウス(P35-45)では見られなかった。しかし、ミクログリアを薬理学的に除去すると、成体マウスでもスパイン頭部増大が認められた。薬理学的手法によりNAがβ1アドレナリン受容体依存的ではなくβ2アドレナリン受容体依存的にスパイン可塑性を促進することを見いだした。さらに、ミクログリア特異的なホスホジエステラーゼ3の薬理学的阻害はNA非存在下でスパイン可塑性を誘導した。一方、ミクログリアを標的にcAMPシグナル伝達を化学的に阻害すると、NA依存的なスパイン可塑性はブロックされることがわかった。次にミクログリアがスパインを抑制する下流機序を探索した。in vivoイメージング研究ではミクログリアは物理的な接触によりスパイン機能を抑制していると考えられている。しかし、実際に活動依存的なスパイン増大においてミクログリアがこのような役割を担うかは未知である。ミクログリアの形態イメージングでは、STDP刺激で刺激されたスパインにミクログリアが新たに接触することはなく、そのような効果を示唆する以前の研究とは矛盾することが分かった。一方、ミクログリアが液性因子によりスパインを抑制する可能性を薬理学的に検証したところ、ミクログリア関連のTNF-シグナルは、NAの下流でスパイン可塑性を抑制することがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
遺伝子改変マウスと化学遺伝学を駆使し、ミクログリアの細胞内cAMPが新しい可塑性制御機序のシグナル路として作用することを新規に見出すことができた。また、ミクログリアの形態イメージングでは、STDP刺激で刺激されたスパインにミクログリアが新たに接触することはなく、そのような効果を示唆する以前の研究とは矛盾することが分かった。一方、ミクログリアが液性因子によりスパインを抑制する可能性を薬理学的に検証したところ、ミクログリア関連のTNF-シグナルは、NAの下流でスパイン可塑性を抑制することがわかった。これらの結果は、若年成体マウスにおいて、NAがミクログリア-cAMP経路を介して活動依存的なスパイン増大を間接的に脱抑制していることを示している。ノルアドレナリンがミクログリアを介して可塑性制御する機序が制御する学習行動は何なのかや、なぜ発達期には可塑性が高くてその後低下するのか、など新しい疑問が生まれた。
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今後の研究の推進方策 |
既に抑うつモデル動物で可塑性が低下すること、ケタミンで回復することがわかっているが、この作用に本年度同定した新規シグナル路が関与しているのかを明らかにする。
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