グルタミン酸の2光子アンケージングによるスパイクタイミング依存的可塑性(STDP)プロトコルを用いて、マウスの内側前頭葉皮質(mPFC)の急性スライス標本第5層錐体ニューロンの単一スパインにおける可塑性のシグナル伝達経路を調査したところ、STDP刺激により、幼若マウス(P16-21)ではスパイン頭部増大が見られたが、成体マウス(P35-45)では見られなかった。しかし、ミクログリアを薬理学的に除去すると、成体マウスでもスパイン頭部増大が認められた。薬理学的手法によりNAがβ1アドレナリン受容体依存的ではなくβ2アドレナリン受容体依存的にスパイン可塑性を促進することを見いだした。さらに、ミクログリア特異的なホスホジエステラーゼ3の薬理学的阻害はNA非存在下でスパイン可塑性を誘導した。ミクログリアを標的にcAMPシグナル伝達を化学遺伝学により阻害すると、NA依存的なスパイン可塑性はブロックされることがわかった。ミクログリアの形態イメージングでは、STDP刺激で刺激されたスパインにミクログリアが新たに接触することはなく、そのような効果を示唆する以前の研究とは矛盾することが分かった。一方、ミクログリアが液性因子によりスパインを抑制する可能性を薬理学的に検証したところ、ミクログリア関連のTNF-シグナルは、NAの下流でスパイン可塑性を抑制することがわかった。さらにうつ病モデルではNAによる可塑性誘発が阻害された。ホスホジエステラーゼ3の薬理学的阻害はこの抑制を解除した。さらにこれらシグナルが制御する学習行動として観察性恐怖学習を同定した。この学習中にノルアドレナリンが分単位で上昇した。β2受容体の阻害、CaMKIIシグナルの阻害によりこの学習は阻害された。一方、ミクログリアを除去するとこの学習は亢進した。以上より、新規シナプス機序が制御する行動について明らかにした。
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