研究課題
本研究では、サルやヒトなど霊長類の中期視覚野における視覚的質感と両眼視差の処理を行う経路の特定とその処理内容の理解を進めることを目的とする。従来のサルを用いたシングルユニット活動細胞外記録法による研究の多くは、解析対象の細胞が属する領野の同定はできているが、一つの領野内のサブ構造(例えば、V1のブロブ構造、インターブロブ構造、V2の3種類のストライプ構造)のどれに属しているかが同定されていない。そのため、テクスチャーや両眼視差の情報が、サブ領野構造のどこを通過して処理されているかが不明であり、これら視覚情報の処理経路の正確な理解が得られていない。本研究では、内因性信号光学計測法によるサブ領野記法構造の同定と2光子励起カルシウムイメージング法による個々の神経細胞の反応特性の解析とサブ領野内分布の決定を、サルの大脳皮質へ同時適用し、この問題を解明することを目的とする。まず、この技術をサル視覚系に適用するための技術開発(新規作成したGCaMP遺伝子ウイルスベクターの注入最適濃度、体積、間隔、経時変化の確定)を行った。新規GCaMP遺伝子はサルの大脳皮質において、高発現し、dF/F(定常状態における蛍光Fに対して差分dFがどのくらいになるかの比)が400%にもなる強い蛍光信号を発生し、内因性信号光学計測法により同定したサブ領野との対応をとることが可能になった。本成果は、新型コロナウイルス感染症による影響のため停止していた実験を再開することで獲得したもので、現在、得られた成果を国際誌に投稿し、査読されているところである。2022年6月よりは、サルにおける研究の発展として、ヒトの中期視覚野における両眼視差の処理過程を調べるために、両眼立体視を遂行中の被験者の脳機能イメージング(fMRI)研究を行い、両眼間の画像相関を段階的に操作した刺激を用いることで、両眼対応問題を解決している脳部位の同定を試みた。
2: おおむね順調に進展している
本研究課題の主要な実験であるサルを対象にした内因性信号光学記録法と2光子カルシウムイメージング法の統合的適用実験は、厳密な室温コントロールがなされた部屋で行われなくてはならない。室温変化が光学機器や実験テーブルのわずかな変形を引き起こし、光路がずれることにより、イメージングの精度に甚大な影響を与えるからである。そのため、誤差0.5度範囲内での厳密な温度管理を行う必要があり、ドアも締切りしなくてはならない。新型コロナウイルス感染蔓延により、密室に4、5名の実験者が長時間滞在しなくてはならない本実験の遂行を長期に渡り、停止せざるを得ない事態となり、研究は当初予定よりも遅れざるを得なかった。しかし、2022年1月に再開した実験により得たデータは非常に良好であり、その成果を解析し論文としてまとめ、投稿を行った。ヒトを対象とした脳機能イメージング実験は順調に進み、結果の解析を行い、現在、その論文を執筆中である。
新規GCaMP遺伝子を用いた2光子カルシウムイメージングと内因性信号光学記録法のサル大脳皮質への同時適用の技術達成の成果を国際誌で発表することを最優先の課題とする。現在論文はすでに投稿され、査読中である。査読結果によってはさらに解析や改稿を行う予定である。ヒトを対象とした両眼立体視経路のfMRI研究についても、データの取得が終了し、本成果についても論文の作成、投稿、発表を進めていく。
すべて 2022 2021
すべて 雑誌論文 (2件) (うちオープンアクセス 1件、 査読あり 1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件) 図書 (2件)
BioRxiv
巻: - ページ: 1-40
10.1101/2021.07.18.452859
IEICE Technical Report
巻: 121 ページ: 1-6