研究課題
本研究は、霊長類の初期および中期視覚野における視覚情報の処理経路と処理内容について理解を進めることを目標とした。従来の電気生理学的研究の多くは領野レベルの解析が主体であり、領野内のサブ領野構造を区別していない。そのため、ある特定の視覚情報が、サブ領野特異的な解剖学的結合のどれを使って処理されているかが、多くの場合、不明である。この問題の解決には、サブ領野構造を可視化する大域イメージングと個々の細胞の活動解析が可能な高い時空間精度を持つイメージングを組み合わせる必要がある。昨年度に引き続き、上記目標のために必要とされる、内因性信号光学計測法による機能構造の同定と2光子イメージング法を霊長類に併用適用する手法の開発を行った。2光子イメージング法に使われる既存のGCaMP遺伝子ベクターは、齧歯類の脳では高発現するものの霊長類の脳では発現が低い。そこで、新規のGCaMP遺伝子ベクターをサルの視覚野に適用して、細胞による取り込みとGCaMP発現の効率、神経活動に伴う蛍光反応の強度、蛍光反応が観察できる期間の検討を行った。その結果、この新規ベクターは、サルの一次視覚野(V1)の神経細胞に高効率で取り込まれ、神経細胞活動に伴い静止時の400%にも達する蛍光変化(d F/F)を示し、かつ6か月以上に渡り観察可能であることが判明した。V1のブロブ構造とブロブ間構造を内因性信号光学計測法により同定した上で、個々の細胞の視覚応答性を解析したところ、ブロブ間構造の細胞の方が強い方位選択性を持つことが示され、この技術が大域構造と個々の細胞反応を結びつけることに適用できることを示した。この技術を、二次視覚野(V2)に適用しようとしたが、用いた実験個体ではV2が脳表に露出しておらず(一定確率でこのような個体がいる)、中期視覚野における視覚情報処理経路と内容についての検討は今後の課題として残された。
令和5年度が最終年度であるため、記入しない。
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Nature Communications
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