研究実績の概要 |
本研究はげっ歯類海馬苔状線維シナプスをモデルとして、シナプス可塑性やシナプス前修飾のメカニズムを電気生理学的な手法を基盤として解明することを目標としている。本年度は、当初の研究目標に従って、海馬苔状線維シナプスで以下の研究を進めた。① cAMP濃度上昇によって、シナプス前終末active zone付近でのCaチャネル集積とそれに伴う終末からの伝達物質放出量の増大をすでに報告した(Fukaya et al., 2021, PNAS)。さらに、Caチャネル集積現象がforskolinなどのcAMP濃度の強制上昇ではなく、生理的条件下でもおこるのか、あるいは生理的条件下では伝達物質放出機構の制御や終末の興奮性など異なる分子細胞メカニズムで伝達物質放出量の増大がおこるのかを急性スライス標本で電気生理学的な手法を用いて調べた。② シナプス伝達強度は同一種のシナプスでも斉一ではなく、ばらつきがある。神経回路の計算能力にとって重要なファクターでありうる。海馬苔状線維シナプスにおいて、シナプス伝達強度のばらつきがどのようなメカニズムで起こっているのかを明らかにしたいと考えている。そこで強度のばらつきの分布について電気生理学を用いて調べた。今後は、超解像光学顕微鏡を用いて分子分布との対応関係について調べること、さらには①の可塑性メカニズムと共通のメカニズムがあるのか、あるいは違うのか、について検討を進める予定にしている。③ これ以外にも海馬苔状線維から介在神経細胞へのシナプスの基本的な性質を調べる研究、海馬歯状回へのシナプス入力特性を調べる研究などが行われた。これらは論文として公刊された。
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