研究課題/領域番号 |
21H02600
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研究機関 | 生理学研究所 |
研究代表者 |
吉村 由美子 生理学研究所, 基盤神経科学研究領域, 教授 (10291907)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 大脳皮質視覚野 / 興奮性シナプス結合 / 興奮性ニューロン |
研究実績の概要 |
本研究では、大脳皮質の中でも、感覚入力を操作しやすく、シナプス可塑性や感覚反応の経験依存的発達に関する知見が蓄積されている一次視覚野をモデルに、発生期の細胞系譜と生後の経験のそれぞれに依存したメカニズムが神経回路構築と機能発達にどのように働くかを明らかにすることを目的とする。本年度は、興奮性ニューロンの細胞系譜を標識するために、赤色蛍光蛋白(RFP)が興奮性ニューロンでのみ発現するiPS細胞を樹立した。このiPS細胞を野生型マウス胚に一つ移植してキメラマウスを作製した。キメラマウスが生後3週齢に達した時点で、パラホルムアルデヒドにより固定し、iPS細胞から発生したクローン細胞の分布を組織学的に調べた。標本上のすべてのニューロンを蛍光ニッスル染色により可視化し、共焦点顕微鏡観察により、RFP陽性細胞の割合を調べた。大脳皮質の発生が始まる胎生10.5日目に分化した単一の神経幹細胞から生まれたニューロンは、大脳皮質にカラム状に分布すること、この分布範囲においては約10%のニューロンが同じ神経幹細胞から発生することが報告されている。カラム状の分布パターンとそこに含まれるRFP陽性細胞の割合により、大脳皮質上のRFP陽性細胞群は、胎生10.5日に分化した単一の神経幹細胞より発生したクローン細胞群であることを示す結果を得た。これらのことから、本年度に樹立したiPS細胞を用いて、同一の神経幹細胞から発生した興奮性クローン細胞を大脳皮質で効率的に蛍光標識できる実験系が整ったと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々がこれまでの解析で用いてきたiPS細胞は、そこから発生した細胞すべてが蛍光蛋白で標識された。したがって、大脳皮質においては、血管系の細胞やグリア細胞、抑制性ニューロン等にも蛍光蛋白が発現するため、興奮性ニューロンによる発生カラムの観察の妨げになっていた。本年度は興奮性ニューロン特異的なプロモータ制御下で蛍光蛋白を発現するiPS細胞を樹立することで、実験系の確立に成功していることから、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度に最適化した実験系を用いて、細胞系譜に依存した興奮性神経結合の特異性を解析する。一次視覚野切片標本上の発生カラムを効率よく同定できることが見込まれるので、この標本を用いて細胞系譜が同じ興奮性ニューロンペアと異なるペアのシナプス結合解析を進める。
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