研究課題
電位依存性イオンチャネル(VGIC)は、膜電位に応じた特定イオンの膜透過を通じて膜電位を制御し、神経伝達や心臓の拍動を担う膜タンパク質であり、創薬の標的としても重要である。VGICは一般に、膜電位依存的に静止構造・透過性構造・不透過性構造の間を遷移することによりゲートを開閉し、特定のイオンを膜透過させることで膜電位を制御する。しかしながら、これまでに複数の機能構造が原子分解能で明らかになったVGICはなく、膜電位のかかった静止構造や一過的にしか存在しない構造、および、機能構造間の遷移メカニズムは未解明である。そこで本研究では、化学修飾により未解明である機能構造を安定化する手法を確立し、それぞれの構造の意味を電気生理学的解析により解明するとともに、それらの立体構造をX線結晶構造解析あるいはクライオ電子顕微鏡により原子レベルで明らかにする。同時にNMRによりそれらの間の構造遷移を解析することにより、VGICの動作メカニズムを解明することを目的とする。本研究では、膜電位依存的に形成される電位依存性K+チャネルKvAPの各機能構造を安定化するために、電位センサードメイン内の2か所にCys変異を導入し両者をSS結合で固定化する。これまでに25種類のダブルCys変異体を調製し、SS結合形成能を評価したところ、5変異体において膜電位非存在下であってもSS結合が形成されることを見出した。これらの変異体に導入した2残基のCysは、すでに報告されているKvAPの電顕構造ではSS結合が形成できない距離にあるものが4個含まれていた。このことから、電位センサーの異なるコンホメーションがSS結合により安定化されたことが示唆された。そこで、これらの5変異体がどのような機能状態を反映した構造であるか、電気生理学的に調べるとともに、試料の大量調製法を確立し、電顕での予備実験を行った。
2: おおむね順調に進展している
電子顕微鏡でのチャネル粒子の観察から、当初の試料調製法ではチャネル機能を発揮するのに必要な4量体構造を形成していない可能性が示唆された。そこで、試料調製法を見直し、界面活性剤の変更やナノディスクへの再構成を試みたところ、野生型および複数の変異体で良好な電顕像が得られ、今後の方向性が明確になった。
各変異体について、クライオ電子顕微鏡での立体構造解析を進めるとともに、各変異体がどのような機能構造を反映したものか、電気生理学的な性状解析により明らかにしていく。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (14件) (うち国際学会 2件、 招待講演 2件) 備考 (2件)
Frontiers in Chemistry
巻: 10 ページ: 1~9
10.3389/fchem.2022.1090643
Journal of Biological Chemistry
巻: 298 ページ: 101844~101844
10.1016/j.jbc.2022.101844
http://square.umin.ac.jp/keio-skb/index.html
https://www.pha.keio.ac.jp/research/mfp/index.html