研究課題/領域番号 |
21H02620
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
松沢 厚 東北大学, 薬学研究科, 教授 (80345256)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ストレス応答 / 翻訳後修飾 / 液-液相分離 / シグナル伝達 / 液滴 |
研究実績の概要 |
細胞はストレスの種類・強さに応じて、それらのストレスに適切に応答し、生命の恒常性を維持している。ストレス応答シグナル分子への多様な翻訳後修飾による制御を介して、適切な応答が誘導され、その制御の破綻が疾患の原因となることを、これまで本研究では解明してきたが、シグナル制御の分子実体や具体的な仕組みは解明されていない。本研究の成果として、液-液相分離で形成される液滴様の構造体がストレスシグナルの制御・発信の場として働くこと、また、その形成異常が細胞死や炎症の惹起のトリガーとなり、薬剤の効果・毒性発現等にも関わる可能性が明らかとなってきた。 例えば、我々が独自に研究を行っている新たなタイプの細胞死の誘導には、リン酸化・ユビキチン化・ADPリボシル化といった翻訳後修飾が必要であり、これらの翻訳後修飾によって液滴様の構造体の形成が促進されること、液滴様構造体の形成はストレス刺激に依存していること、また、この液滴様構造体の形成が新しいタイプの細胞死の誘導機構にとって重要であることを分子レベルで解明することができた。さらに、癌転移などで行われる組織内への細胞浸潤に必要な細胞運動・遊走が、特定の薬剤刺激によって抑制される際に形成される構造体も液滴様であり、この液滴様構造体の形成が無ければ、細胞運動・遊走の抑制は起こらないことも見出している。これらの液滴様構造体に不可欠な因子として多機能分子p62なども独自に同定しており、共通したメカニズムで液滴様構造体を安定化していることも明らかにできた。このように本研究では、細胞死や細胞遊走など、基本的な生命現象の実行に、多様な翻訳後修飾の相互作用を基本とした液滴様構造体の形成とそこから発信されるストレスシグナルが不可欠であることを検証できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の成果として、多様なシグナル分子修飾をトリガーとする液滴様構造体形成、即ち、液-液相分離によって、ストレス応答シグナルの制御が可能となる新しい仕組みが解明されつつある。具体的な成果を以下に挙げる。 1) ある特殊な新しいタイプの細胞死の誘導・促進には、ストレス刺激に依存して行われる、リン酸化・ユビキチン化・ADPリボシル化などの多様な翻訳後修飾の相互作用を基盤とした液滴様構造体の形成が重要であることを見出した。 2) 癌転移の際などで起こる組織内への細胞浸潤に必要な細胞運動・遊走が、特定の薬剤刺激によって抑制されることを見出し、その抑制には液滴様構造体の形成が必要であることを明らかにした。 3) これらの構造体が液滴の性質を有することを検証した。 4) 様々なストレス刺激によって形成される液滴様構造体に共通の構成分子を独自に同定し、その中の幾つか分子について、液滴形成での役割や細胞死などの生理応答誘導に対する機能を解明することができた。 5) 液滴形成を起点としたストレス応答シグナルの活性化と微調整の仕組みの普遍性について、細胞死や炎症、細胞遊走などの幾つかの生命現象で検証した。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、さらに本年度の成果を基にして、様々なシグナル分子の修飾をトリガーとする液滴様構造体形成(液-液相分離)を介したストレス応答シグナルの新規制御機構とその破綻で生じる疾患発症等の仕組みを解明するため、以下の観点から研究を推進する。 1) ストレス刺激がシグナル分子の翻訳後修飾に変換される分子機構を解明すると共に、2) ストレス応答シグナル分子への翻訳後修飾が液滴形成を促進する仕組みについて明らかにしたい。 3) 多様な翻訳後修飾のそれぞれの役割とそれらの相互作用について分子レベルで解明する。 4) 液滴の流動性やその形成の可逆性などに対して、これらの翻訳後修飾が影響するのか否か、さらに、ストレスの種類・強さと、シグナル分子の修飾および液滴形成との対応関係や、その液滴の種類と生理的応答との対応関係を検討する。 5) 液滴形成を起点としたストレス応答シグナルの活性化と微調整の仕組みが、ストレスシグナル制御にとって普遍的であることを検証する。 6) 液滴構成分子の中から、薬剤の効果・毒性発現や癌・自己免疫疾患発症に関わる創薬治療標的分子を見出し、その治療標的の制御という新たな疾患治療戦略の妥当性を追求する。
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