研究課題/領域番号 |
21H02624
|
研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
中島 美紀 金沢大学, ナノ生命科学研究所, 教授 (70266162)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | RNA修飾 / 転写後調節 / 薬物代謝酵素 / シトクロムP450 / 核内受容体 / グルクロン酸転移酵素 / 加水分解酵素 |
研究実績の概要 |
薬物代謝酵素は、医薬品有効成分の血中濃度を規定し、薬効や副作用発症を左右する重要な因子であり、その発現変動要因を解明する研究は、医薬品開発の効率化および医薬品適正使用の観点から社会的意義が大きい。薬物代謝酵素の発現には大きな個人差があり、遺伝子多型や核内受容体等による転写調節機構が解明されてきた。しかし、mRNAとタンパク質発現量に相関が認められないケースも多く、転写後調節機構の寄与が示唆されている。本研究では、RNA編集とRNAメチル化 (RNA修飾)による、薬物代謝酵素の転写後調節のメカニズムと意義を明らかにすることを目的としている。 本年度は以下の3つの研究成果を得た。 1. 多岐にわたる薬物代謝酵素の転写を制御している因子であるpregnane X receptor (PXR)の3'-非翻訳領域がA-to-I RNA編集を受けており、その編集を担うADAR1のノックダウン(KD)によりPXRの発現量が有意に増加し、それによって、その下流遺伝子であるCYP3A4やUGT1A1などの発現も増加することを明らかにした。 2. UGT2B7 mRNAの5'UTRおよび3'-UTRがm6A修飾(アデノシン6位メチル化)を受けていることを明らかにした。UGT2B7の発現量は、メチル化酵素のKDにより増加し、脱メチル化酵素のKDにより減少したことから、m6A修飾はUGT2B7の発現を負に制御していることが示された。 3. 加水分解酵素であるCES2は、主に5'UTRと最終エクソンでm6A修飾を受けており、リーダータンパク質であるYTHDC2が5'UTRのm6Aを認識することでCES2の発現を抑制していることを明らかにした。メチル化酵素のKDによりCES2が触媒する抗がん薬CPT-11の加水分解や脂質代謝が亢進することが示された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
代謝酵素発現のマスターレギュレーターと呼ばれる転写因子PXR、グルクロン酸抱合を担うUGT分子種、加水分解反応を担うCES2について、RNA編集やRNAメチル化による転写後調節により、どのように発現が制御されているか解析を進め、いずれも論文としてまとめ、国際学術雑誌に発表した。
|
今後の研究の推進方策 |
①RNA編集やRNAメチル化による薬物代謝関連因子の発現制御メカニズムの解明 これまでの研究で、シトクロムP450だけでなく、UDP-グルクロン酸転移酵素、カルボキシルエシテラーゼなどの薬物代謝酵素が、RNA編集やRNAメチル化を受けることで発現が制御されていることが明らかになってきたことから、引き続き、その他の薬物代謝酵素としてアルドケト還元酵素などの発現に及ぼすRNA修飾の影響を明らかにする。
② A-to-I RNA編集またはm6A修飾を受ける肝臓中microRNAの解析 microRNA前駆体pre-miRNAがA-to-I RNA編集またはm6A修飾を受けると、プロセッシングが変化して成熟型microRNAの発現量が変化し得る。また、成熟型microRNAがA-to-I RNA編集されると、標的遺伝子への結合性が変化し得る。これらは、標的遺伝子の発現量を変化させる要因となる。そこで、ADARまたはm6A修飾酵素をノックダウンした際のmicroRNAの発現変化をmicroRNAアレイ解析により明らかにする。A-to-I RNA編集により発現量や塩基配列が変化したmicroRNAの中から、薬物代謝酵素の発現を制御している可能性があるものをTargetScanなどの予測プログラムにより絞り込み、そのmicroRNAの編集や修飾によって薬物代謝酵素活性が影響を受けるか明らかにする。
|