薬物代謝酵素は医薬品有効成分の血中濃度を規定し、薬効や副作用発症を左右する重要な因子であり、その発現変動要因を解明する研究は、医薬品開発の効率化および医薬品適正使用の観点から社会的意義が大きい。薬物代謝酵素の発現には大きな個人差があり、遺伝子多型や核内受容体等による転写調節機構が解明されてきた。しかし、mRNAとタンパク質発現量に相関が認められないケースも多く、転写後調節機構の寄与が示唆されている。本研究では、RNA編集やRNAメチル化 (RNA修飾)による、薬物代謝酵素の転写後調節のメカニズムを明らかにすることを目的としている。 本年度は、医薬品の代謝に最も大きく寄与する薬物代謝酵素であるCYP3A4の発現に及ぼすRNAメチル化の影響について、詳細なメカニズム解析を行なった。薬物代謝酵素の発現量を維持できているヒト肝がん由来HepaRG細胞に、RNA6位メチル化(m6A修飾)を担う酵素METTL3およびETTL14に対するsiRNAを導入してノックダウンしたところ、CYP3A4 mRNA発現量の有意な増加が認められ、一方、m6Aの脱メチル化を触媒するFTOのノックダウンにより、CYP3A4 mRNA発現量の有意な減少が認められた。m6A修飾される特徴的な配列であるDRACHモチーフは、CYP3A4 mRNAの5'-非翻訳領域(UTR)、翻訳領域ならびに3'-UTRに認められたが、中でも3'-UTRが高度にm6A修飾されていることを、m6Aに対する抗体を用いたRNA免疫沈降法により明らかにした。m6Aを認識して発現量を変動させるリーダータンパク質のうち、YTHDC2がCYP3A4 mRNAのm6Aを認識して、CYP3A4 mRNAの分解を促進していることを明らかにした。以上、本研究ではCYP3A4 mRNAがm6A修飾を介して発現調節されるメカニズムを明らかにした。
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