自閉スペクトラム症の分子病態を理解するためには、より実際の患者脳に近い系で病態を解析することによりヒト(患者)細胞レベルの解析の妥当性を高め、マウス個体レベル・ヒト病態レベルの解析に有用なものにしていくことが必要であると考えています。本研究では、疾患との関連性が高いことが期待される遺伝子変異の表現型を、細胞レベルの解析のみならず、患者iPS細胞由来3次元脳オルガノイド等を用いて明らかにし、その妥当性をこれまでに開発してきた疾患モデルマウスや大規模患者リソースで評価する計画です。本年度は、3次元脳オルガノイド研究に直結する、疾患モデルマウスを用いた分子病態解析を推進しました。これまでの研究から、3q29領域の相同領域に欠失を導入した3q29欠失モデルマウスにおいて、社会性行動異常を見出していました。その分子病態を解析することを目的として、マウス脳を用いたRNA発現解析を実施したところ、大脳皮質領域における興奮性神経細胞および抑制性神経細胞の発達異常が社会性行動異常を引き起こす可能性を示す結果を得ました。前年度までの研究から、POGZ変異モデルについても大脳皮質領域に注目する必要性が示唆されていたため、前脳部分に相当する領域をモデル化した3次元脳オルガノイドの作製のための技術開発を実施し、前脳部分に相当する領域に相当する神経細胞を含むオルガノイドの作製に成功しました。また、3q29領域欠失を有する患者由来iPS神経細胞の分化異常に関する分子病態解析を推進し、欠失領域に含まれる遺伝子の一部で分化異常を説明可能であることを示唆する結果を得ました。
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