研究課題/領域番号 |
21H02635
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
脇本 敏幸 北海道大学, 薬学研究院, 教授 (70363900)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 生合成遺伝子 / ゲノムマイニング |
研究実績の概要 |
本研究では従来の天然物探索事例の少ない微生物株についてゲノム情報を取得し、ゲノム情報を起点とした新規天然物の探索を実施する。特に放線菌以外の菌株、中でも物質生産に秀でたグラム陰性菌を見出し、重点的に探索を進める。原位置培養方法等によって希少微生物株を収集するとともに、海綿動物や植物に共生する微生物株を重点的に探索標的とする。環境中より収集した菌株は16S rRNA配列によって系統解析し、過去の天然物探索事例が少なく、かつ有望な微生物株を選別する。まずゲノム解析を実施し、ゲノムにコードされる生合成遺伝子クラスターを見出し、新規天然物探索の指標とする。生合成遺伝子クラスターを起点とすることで様々なアドバンテージがある。第1に生合成遺伝子自体が休眠遺伝子である場合はトランスポゾン変異などを利用して、休眠遺伝子の活性化を試みる。第2にひとたび新規天然物が得られれば、生合成遺伝子クラスターが紐づいてくるために、生合成経路の解析へ容易に展開できる。新規の二次代謝酵素が見出されれば生体触媒としての応用展開が期待できる。第3に生合成遺伝子クラスターには化合物の生合成経路のみならず、自己耐性機構が含まれている場合があるため、自己耐性機構から該当化合物の作用機序を明らかにすることができる。また、あらかじめ探索の段階で自己耐性遺伝子が含まれる生合成遺伝子クラスターに着目することで、生物活性天然物を効率的にゲノムマイニングすることができる。このように本研究では次世代型の新規天然物探索手法を最大限活用し、これまでにない包括的な探索研究を実施し、新規抗生物質や細胞毒性物質の発見を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
近年、膨大な未開拓生物資源として未培養微生物群の存在が明らかにされている。我々は原位置培養方法による環境微生物の単離を試み、これまでに1,000株以上を取得した。さらに、得られた環境微生物株は16S rRNA配列によって系統解析し、特に放線菌以外でかつ過去の研究例が少ない微生物株を重点的に選別した。選別して得られた菌株についてOxford Nanopore sequencerを用いたドラフトゲノムシークエンス解析を実施した。ドラフトゲノム情報をもとにantiSMASHなどの解析ソフトを用いてNRPSやPKSなどの生合成遺伝子クラスターの検索を行った。遺伝子クラスターを豊富に含む菌株を選別し、培養して抽出物を作成、その代謝物プロファイルをLC-MSで分析するとともに、抗菌活性試験、細胞毒性試験を実施し、生物活性とLC-MSプロファイルの双方を指標に新規天然物の探索を進めた。その結果、北海道大学キャンパス土壌より分離した2種のVariovorax属の菌株より複数のペプチド関連化合物を見出した。各種NMRスペクトルおよびMSMSの解析の結果、これらの新規化合物の構造はヒドロキサム酸構造を有する環状デプシペプチドであった。これら新規ペプチドはいずれも抗菌活性を示すシデロフォアであることが明らかになった。ドラフトゲノム解析からNRPSをコードする生合成遺伝子クラスターを見出した。候補遺伝子の破壊実験により、これらペプチド類の生産が消失することを確認した。さらに、Acidobacteria門の菌株のゲノム解析を進め、新たなリボソームペプチド生合成遺伝子を見出した。現在、異種生産系の構築を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
Acidobacteria門の菌株からはリボソームペプチド以外にも興味深い生合成遺伝子が複数見出されている。今後はそれらの単離、構造決定を試みる。さらに生合成遺伝子クラスターがゲノム中に見出されても、実際に発現していない可能性があるため、新たな休眠遺伝子の活性化方法を試みる。これまでにバクテリアが産生する膜小胞を用いた休眠遺伝子活性化方法を検討しており、多くの菌株に有効であることを確認している。今後はこれらの手法をさらに発展させ、より効果的で汎用性の高い手法を確立する。
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