研究課題
放線菌や真菌は,多くの有用な化合物を提供してきた.しかしながらその遺伝子は2割程度しか働いておらず,新たな新規天然物を生産するであろう生合成遺伝子が眠ったままの休眠遺伝子であることがわかっている.我々は近年,病原放線菌と動物細胞の共培養法を開発し,休眠遺伝子活性化に成功している.この新規手法は,病原微生物が動物に感染する際の状況を再現し,疑似感染状態を模倣したもので,国内外でも初めての例であり独創的で新規性が高い.本研究では,本共培養法を病原真菌にも応用し,新たな共培養特異的化合物を見いだし,その生産機構に迫ることを目的とする.千葉大学真菌医学研究センターが保有する臨床検体から分離された病原真菌と免疫細胞(マウスマクロファージ様細胞)を様々な条件下共培養を行った.細胞のみの培養,菌のみの培養および,共培養の際の化合物生産をHPLCで比較し,共培養特異的化合物を見いだした.本年度は,病原真菌以外にも,麹菌や耐熱真菌,また腸内細菌の一つである乳酸菌も検討し,それぞれ共培養時特異的化合物や,共培養時に産生が増強される化合物を見いだした.病原真菌 Aspergillus terreusと急性単球性白血病細胞の共培養では,共培養時に生産が増強される化合物であるブチロラクトン類縁体が得られた.興味深いことにブチロラクトン類縁体は,マクロファージによる一酸化窒素(NO)の産生を抑制した.麹菌 Aspergillus luchensisとマウスマクロファージ様細胞の共培養では,生産が増強される化合物としてイタコン酸誘導体を得た.上流の脂肪酸合成酵素の遺伝子akcDが共培養時に増加していることを見いだした.
2: おおむね順調に進展している
今年度は以下の成果を得ている.1)病原真菌 Aspergillus terreusと急性単球性白血病細胞の共培養Aspergillus terreusと急性単球性白血病細胞と共培養を試みたところ,共培養時に生産が増強される化合物が検出され,大量培養して単離・構造決定したところ,ブチロラクトン類縁体が得られた.ブチロラクトン類縁体の絶対配置を計算科学とCDスペクトルにより決定した.興味深いことにブチロラクトン類縁体は,マクロファージによる一酸化窒素(NO)の産生を抑制した.この結果は,A. terreusが免疫細胞に打ち勝つために免疫抑制物質を産生する可能性があることを示唆している.2) 麹菌 Aspergillus luchensisとマウスマクロファージ様細胞の共培養麹菌は,酒などの発酵に使用される真菌であり,有用な二次代謝物の産生でも知られ,これまで化粧品や医薬品などに応用されてきた.我々は,麹菌と動物細胞の共培養での休眠遺伝子活性化の可能性を考えた.Aspergillus luchensisとマウスマクロファージ様細胞J774.1の共培養において,生産が増強される化合物を見いだした.構造解析を行ったところ,イタコン酸誘導体であることが明らかとなった.生合成経路の上流の脂肪酸合成酵素の遺伝子akcDに着目し,菌体からRNAを抽出して逆転写を行った後に, real time PCRを行ったところ,akcDの発現量が,共培養時に約6.6倍も上昇していることが明らかとなった.
現在,共培養特異的化合物が得られている病原微生物系,麹菌系の単離化合物について,どうして休眠遺伝子が活性化されるのかのメカニズム解析のため,微生物と細胞の接触が必要なのか,細胞の培養液のみの添加で微生物の休眠遺伝子が活性化されるのか,などを検討していく.また,RNA-seqを用いて動物細胞との共培養で発現が上昇している遺伝子を検討する.また,今年度は,さらに異なるカテゴリーの微生物の使用も計画しており,本共培養系の応用範囲を検証していく.現在得られている化合物で,免疫抑制活性を有するものがあり,その活性の作用機序をウェスタンブロットやRT-PCR等で解明していく.また,合成的なアプローチも計画しており,単離された共培養特異的化合物を有機合成的に供給し,その生物活性を検討していく.生物活性は,免疫抑制活性や,神経幹細胞の分化促進活性,がん細胞への毒性,がん細胞の遊走阻害活性などである.また,重要なシグナル伝達である,Wnt, Hedgehog, Notchシグナルの細胞アッセイ系も有しており,それらへの影響も検討する.
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 3件、 招待講演 3件) 備考 (1件)
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