研究課題/領域番号 |
21H02647
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
家入 一郎 九州大学, 大学病院, 大学院担当教授 (60253473)
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研究分担者 |
廣田 豪 九州大学, 大学病院, 副薬剤部長 (80423573)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | miRNA / 臓器特異的 / 体内動態変動 / 薬効動態変動 |
研究実績の概要 |
生活習慣病をはじめとする疾患による薬物動態の変動は、疾患の適切な薬物治療の妨げとなると考えられる。このうち2型糖尿病の進展は、高血圧や脂質異常症などの様々な合併症を誘発するため、糖尿病患者の服用薬は多岐にわたる。糖尿病に起因する薬物動態関連遺伝子の発現量・活性の変化は、薬物の薬効の低下や副作用を誘発する恐れがあるため、糖尿病時の薬物関連遺伝子の発現変動機構を解明することは適切な薬物治療を行う上で重要であると考えられる。これまでに、疾患により発現するmiRNAが変動することが多数の研究者により報告されている。しかしながら、これらmiRNAの発現変動と病態時における体内・薬効動態変動との関連についての研究は皆無であった。我々は高濃度のグルコース曝露により、肝がん由来HepG2細胞内の複数のmiRNAの発現減少が引き起こされることを同定した。また、それらmiRNAは標的遺伝子である薬物トランスポーターの3’非翻訳領域に直接結合することで、発現制御を行うことが示唆された。細胞内の発現変動したmiRNAが、細胞外に分泌したexosome内に反映されるのかを検討した結果、細胞内にて発現量の上昇したmiRNA量は分泌exosome内において増加し、発現低下したmiRNAは分泌exosome内にて減少した。令和3年度までの検討により、病態により変動するmiRNAの特定と、その発現制御下にある薬物トランスポーターの特定を行った。また、細胞内にて変動したmiRNAは細胞外に分泌したexosome内においても、その挙動をトレースできることが明らかとなった。ここまでの検討により、体液中のmiRNAのうち、疾患時に変動しかつ、薬物トランスポーターの機能制御を行うmiRNAを特定できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
高血糖時に変動するmiRNAを特定するため、高血糖ならび低血糖で曝露したHepG2細胞を用いて、miRNAマイクロアレイを実施した。解析の結果、高濃度グルコース条件下で発現が 2 倍以上変動する約70個のmiRNA が確認された。マイクロアレイにより検出したmiRNAについて、データベース解析を行い、miRNAにより発現制御受ける薬物動態関連遺伝子の検討を行った。データベースにより検出されたすべての標的遺伝子mRNAについて、高濃度グルコース条件下で有意な発現変動を示す薬物動態関連遺伝子は特定できなかった。そこで、miRNA が標的mRNAの分解促進ではなく、翻訳抑制としての機能を有している可能性を考え、標的遺伝子のタンパク質発現量の定量を行った。その結果、高濃度グルコース条件下で、肝臓ならび腎臓に発現する薬物トランスポーターの有意なタンパク質の発現増加を認めた。miRNAによる薬物トランスポーターの3’非翻訳領域を介した発現制御メカニズムを解析するため、ルシフェラーゼアッセイを行った。その結果、3’非翻訳領域含んだベクターをトランスフェクトした HepG2細胞において、miRNA mimicを導入することでルシフェラーゼ活性に有意な減少を認めた。以上の結果から、高濃度のグルコース曝露によりHepG2細胞内miRNAの発現減少が引き起こされることが示唆され、変動したmiRNAは標的遺伝子である薬物トランスポーターの3’非翻訳領域に直接結合することで発現制御を行うことが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度までに、高血糖時に変動し、薬物動態関連遺伝子を制御するmiRNAの特定を終了した。次年度以降は、高血糖時に肝臓において変動した当該miRNAがexosomeを介して、他の臓器の薬物トランスポーターに及ぼす影響を解析する計画である。具体的な研究は、以下の3つのステップを想定している。 1. 血漿からの肝臓由来exosomeの抽出; 糖尿病患者より採取した血漿から肝由来のexosomeを抽出する。あらかじめ、血球由来exosomeの除去を行い、肝臓に特異的に発現する膜抗原に対する抗体を付加したビーズにより免疫沈降を行い、肝臓特異的なexosomeを分取する。肝臓特異的なexosome分離の確認は、肝臓に特異的に発現することが広く知られているmiR-122の測定により行う。 2. 肝臓由来exosome内のmiRNAの定量; 上記1.により、分離したexosomeを対象に前年度までに同定した高血糖時の変動miRNAを定量し、in vivoにおける再現性を確認する。その際に、健康成人から分取した肝臓特異的exosomeの測定を行い、コントロールとする。 3. 肝臓由来exosomeを介した他臓器への影響評価; 上記1.と2.により高血糖によりmiRNA発現が変動した肝臓由来exosomeの分離が確認できる。そこで、当該exosomeを腎臓由来細胞に曝露することで腎臓細胞内の薬物トランスポーター発現への影響を評価することで、exosomeを介した病態時における臓器間相互作用について検討加える計画である。
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