研究課題/領域番号 |
21H02651
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
登美 斉俊 慶應義塾大学, 薬学部(芝共立), 教授 (30334717)
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研究分担者 |
千葉 康司 横浜薬科大学, 薬学部, 教授 (30458864)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 胎盤 / トランスポーター / 生理学的薬物動態モデル |
研究実績の概要 |
妊娠ラットに薬物を持続投与したところ、ジゴキシンおよびインドメタシンのラット胎児-母体血中濃度比(Kp)は、いずれもヒトの38%であったが、胎児-母体非結合形血中濃度比(Kp,uu)はヒトと同程度であった。このことから、ラット母胎間でタンパク非結合分率が異なる薬物の少なくとも一部において、ラットでの胎児移行性評価にタンパク非結合分率を用いることでヒトへの外挿精度が高まることが示された。 ヒト胎盤関門におけるMDR1タンパク発現分子数はマウス胎盤関門での発現分子数の4%程度と見積もられた。一方、マウス胎盤関門でのMDR1単分子あたり薬物分布抑制能は、パクリタキセルでは血液脳関門と同程度である一方、ジゴキシンでは10%以下であった。ヒト胎盤関門や血液脳関門と異なり、マウス胎盤関門は二層の細胞層で構成される。二層の細胞層がconnexin26でgap結合していることを踏まえたマウス胎盤関門透過モデルを構築したところ、gap結合を介した透過の単純拡散透過に対する比が大きくなるほどMDR1の薬物分布抑制能が発揮できなくなることが判明した。この比がパクリタキセルと比べジゴキシンで大きいため、マウス胎盤関門MDR1によるジゴキシンの胎児分布抑制能が小さくなったと考えられる。つまり、ヒトと比較してマウスにおける胎盤関門でのMDR1発現分子数は高い一方、gap結合の存在によってMDR1の抑制効果が打ち消されるため、MDR1による胎児移行抑制能がマウスでより強く表れるのは一部の基質薬物に限られることが示唆された。 さらに、ヒト胎盤灌流から実験的に得られた母体・胎児間薬物濃度比と、実際のヒト薬物濃度比が大きく異なるメトホルミンおよびジゴキシンについて、その胎盤透過を記述する薬物動態モデルを構築し、輸送体の存在が胎児移行性に与える影響や輸送体を薬物相互作用を評価する基盤が構築できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画に準じた形で、胎児移行性の種差を生み出すメカニズムを複数、明らかにすることができた。また、次年度以降の継続に必要となるモデルの構築も行うことができた。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、妊娠ラットに薬物を投与後の胎児移行性を遊離形薬物濃度比で評価し、ヒト薬物濃度比と比較する。遊離形薬物濃度比を基準とすることで、総薬物濃度比で比較したときと比較し、ヒトへの外挿精度が向上するか解析する。遊離形薬物濃度比での評価においても、胎児移行性種差が大きな薬物を見出し、その原因となる輸送体の絞り込みを進めていく。ラットおよびヒト満期胎盤から細胞膜画分を調製し、胎児移行種差を生み出しうる候補輸送体のタンパク発現分子数を定量する。それら候補輸送体を阻害することで胎児移行性種差がどのように変化するのかについても、解析を進める。 また、ヒト胎盤灌流から実験的に得られた母体・胎児間薬物濃度比と、実際のヒト薬物濃度比が大きく異なる薬物について、胎盤透過を記述する薬物動態モデルを構築する。既に基盤となる薬物動態モデルは構築できており、今年度はそのモデルが多数の薬物に対して適用可能であるかどうかを検証するとともに、適用できない場合は改善を図る。
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