研究課題/領域番号 |
21H02651
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
登美 斉俊 慶應義塾大学, 薬学部(芝共立), 教授 (30334717)
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研究分担者 |
千葉 康司 横浜薬科大学, 薬学部, 教授 (30458864)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 胎盤 / トランスポーター / 生理学的薬物動態モデル |
研究実績の概要 |
妊娠ラットに有機カチオン性薬物メトホルミン投与後のF:M比(胎児-母体血中濃度比)を評価したところ、ヒトにおけるF:M比の10%以下となった。一方、マウスにおけるメトホルミンのF:M比はヒトとの差が小さく、ヒト・マウスと比較してラットにおいてメトホルミンの胎仔移行性が低いことが明らかとなった。さらに、ラット・マウス間における胎仔移行性種差は、有機カチオン性化合物である1-methyl-4-phenylpyridinium ion (MPP+)においても示された。そこで、胎児移行性種差の原因となるトランスポーターを同定するため、有機カチオントランスポーターの胎盤細胞膜画分におけるタンパク発現分子数を質量分析により定量した。その結果、organic cation transporter 3 (OCT3)はヒト、マウス、ラットいずれの種においても発現が検出された一方、multidrug and toxin extrusion protein 1 (MATE1)については、ラットにおいてのみ発現が検出された。以上の結果から、メトホルミンのラット胎児移行抑制に関与するトランスポーター候補として、MATE1を抽出することができた。 前年度に、ヒト胎盤灌流から実験的に得られた母体・胎児間薬物濃度比と、実際のヒト薬物濃度比が大きく異なる薬物の胎盤透過を記述する薬物動態モデルを構築している。本年度は、本モデルが他の薬物に対しても適用可能であるか解析を進めた。その結果、解析した7化合物について、いずれも適切にin vivo F:M比を予測でき、これまでの手法に比して予測精度が高いことも示され、汎用性の高いモデルであることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
胎児移行性の種差を生み出すトランスポーターを新たに同定することができた。また、前年度に構築した薬物動態モデルの汎用性も示すことができた。これら成果は研究計画に準じたものであるため、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
ラット胎盤にのみ発現し、ヒト・マウスでの発現が確認できないトランスポーターMATE1について、その阻害剤ピリメタミンが有機カチオンのラット胎仔移行性を上昇させることを実験的に示していく。マウスにおいても同様の解析を行い、比較することで、MATE1が胎児移行に及ぼす影響を明確化する。その上で、ヒト胎盤透過を記述する薬物動態モデルにおいて、輸送体の発現量をラット発現量に調整したモデルでシミュレーションすることで、MATE1基質薬物の胎児移行性がラットの移行性に近づくかを評価する。以上の解析を通じ、輸送体の発現量種差によって胎児移行性に種差が示される薬物についても、薬物動態モデルを活用することで、ラット胎児移行性からヒトへの外挿ができる実例を提示したい。 また、ヒト胎盤透過を記述する薬物動態モデルが、胎盤を介した薬物相互作用の評価に活用できるか、ヒト胎盤灌流実験による相互作用解析の実データが存在するジゴキシンを例に評価を進めたい。本解析を通じて、本研究で構築した薬物動態モデルの汎用性、応用性を提示していく。
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