本研究で注目する繊毛基部のタンパク質動態を研究するため、抗生物質ピューロマイシンの新たなペプチドへの取り込みを利用した表面感知翻訳(SUnSET)アッセイを開発した。pHショックによって鞭毛を失ったクラミドモナスは新たな鞭毛を再生するが、この過程で細胞は鞭毛タンパク質の合成を活発に行う。鞭毛喪失直後には、ピューロマイシンでラベルされたタンパク質が細胞質と新しく形成された鞭毛で劇的に増加し、新たに合成されたタンパク質は鞭毛の先端から軸糸に取り込まれていた。タンパク質合成阻害剤であるシクロヘキシミドは、ピューロマイシンの細胞内および鞭毛内への組み込みをほぼ完全に阻害したが、鞭毛基部に蓄積している「鞭毛前駆体」タンパク質からの供給により自然長の半分まで鞭毛が再生した。一方、シクロヘキシミド耐性変異体act2は、シクロヘキシミドの存在下でもほぼ完全な長さの鞭毛を形成し、その中にピューロマイシンでラベルされたタンパク質を含んでいた。この結果はプレプリントとしてbioRxivに公開している。また、軸糸チューブリンの翻訳後修飾の機能を解析するために、CRISPR-Cas9法を用いてアルファチューブリンとベータチューブリンのカルボキシル基末端部(CTT)の遺伝子改変を行った。 アルファチューブリンCTTの4つのグルタミン酸残基をアラニンに置換した変異株は、ポリグルタミル化されたチューブリンがほとんどなく、繊毛が運動性を消失していることがわかった。一方で、ベータチューブリンCTTのグルタミン酸が豊富な領域を欠く変異株は、中心微小管を欠いた短い繊毛を形成した。この表現型は、kataninのサブユニットに変異を持つ変異株と類似しており、その機能がベータチューブリンCTTに依存することが示唆された。この結果はJournal of Cell Science誌に出版された。
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